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ふわふわの泉 野尻抱介


最終更新: Mon Sep 12 15:30:03 2011


 ここは、川俣から見てお勧め(カモ知れない)本を紹介するコーナーです。


どんな本なのか

 立方晶窒化炭素を偶然に生成してしまった女子高生がそれを売って大金持ちになって,立方晶窒化炭素を活用して宇宙旅行をしてしまう小説です。

 立方晶窒化炭素は,炭素と窒素からなる立体構造を持った分子で,ダイヤモンドよりも硬く,中空構造を持っています。内部が真空になるため,空気よりも軽い微粒子という構造を取ります。そのため「ふわふわ」という名前を与えられます。フィクション上の存在ですが,理論的には「あり得る」分子ということのようです。

 この新素材を使うことで,いろいろと社会が変わっていくわけですね。最終的に,これを使って,宇宙に旅立つための巨大構築物を建造するところまで行きます。「ふわふわの泉」というタイトルは,起動エレベータの建設を描いた小説であるクラークの「楽園の泉」を意識したタイトルです。

なぜイイのか

 まず,化学と物理のニュアンスの違いにこだわる主人公が良い! そう,化学と物理は違うものなのです。化学とは,ある意味で予定調和の世界で,あるべき場所にあるべきものがピタッと収まるのが化学と言えます。確率だとか不確定性だのに支配される物理の世界とは訳が違います。

 それに加えて,あくまで前向きな内容の作品であるということが,非常に良いことです。今の世界はもう変えられない,破滅するだけ,というような後ろ向きの小説なんて,読む気にはなれません。現状を打開する方法がある,と主張することは,たとえ嘘でも素敵なことです。しかも,科学的なバックグラウンドのある小説ですから,ただの嘘ではなく,「もしや実現の可能性も」と思わせる点があるのが,もっと良いところです。

 更に「誰でも宇宙に行ける」という可能性を語ることは,やっぱりワクワクしますね。男の子の冒険心であると当時に,宇宙の資源へのアクセスを確保することは,世界の現状を打開する一つの有力な解決策とも言えます。更に,起動エレベータほど無茶な構造物を作らなくても何とかなる方法を描いたと言うこともポイントが高いところですね。

読んで欲しい人

 世界に閉塞感を感じている人。特にまだ社会に出ていない子供と若者。世界なんてものは,画期的な科学技術の発見で,容易にひっくり返りうるものです。それは,夢や幻ではなく現実です。そうそう,大きな発見が立て続けに起きることは無いとしても,100年という単位で見れば,そういう変化は起きていることが,歴史を見れば歴然としています。あなたの20年の人生で,そんなことは1度もなかったとしても,死ぬまで1度もそのような変化を経験しないで済む,という保証は何もありません。


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作成:川俣 晶
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