最終更新: Mon Sep 12 15:30:03 2011
ここは、川俣から見てお勧め(カモ知れない)本を紹介するコーナーです。
戦後まもなく,水産庁の研究所で,漁村史関連古文書の全国的収集プロジェクトがありました。だすが,その壮大はプロジェクトは中断して,借用したまま返却されない古文書が残ってしまいました。借用期限を越えてしまったにも関わらず,返すこともできないまま残された古文書を,頭を下げ非礼を詫びつつ返してまわった,と言うのが本書のあらすじです。歴史学者網野善彦氏が自分の体験をつづったものです。
ところが,実際に読んでみると,とてつもなく面白い。戦後まもなく訪問した場所に再び行ってみると,大きく様変わりしていたりします。また,他の有益な史料が発見されたりすることもあるわけです。過去の日本史に対する印象がボロボロと崩れ落ちて,まったく新しい,事実に即する日本史観が流れ込んでくる感じがしました。
日本史なんてカビが生えた学問で,何もかもみんな事実は既に明らかになっていて,新しい発見などあるわけがない……。などと思ったら大間違いであることを,極めて現実的な説得力をもって教えてくれた本です。つまり,丹念に探せばまだまだ未調査の史料が眠っているということは事実なのです。そして,残すつもりが無かった文書が他の目的に使われて残った紙背文書に記載された内容は,残すつもりの公式文書とは異なる内容が記されているという事実からして,公式文書に書かれた内容をそのまま事実として鵜呑みにできないことが分かります。
ですから,日本史は既に何もかも分かっているなどと思うのは大間違い。実は,現在でも最先端の研究が継続していて,新しい事実が掘り起こされているのです。
とは言っても,いきなり日本史の新発見が続々と生まれている,といってもにわかには信じられないでしょう。そこで,この本の良いところは,どうやって新発見が掘り起こされているのか,という歴史学者の地道な現場の状況が分かることです。つまり,結果ではなく,プロセスが分かり易く読みやすく書かれたのがこの本と言うことです。
日本史を学ぶ場から離れて10年以上経過した人。少なくとも20年離れた人は,自分が日本史を分かっているなどと思ってはいけません。日本史の常識は変化しつつあります。信じられない人はこの本を読むと良いでしょう。
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