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ベルリン1945ラストブリッツ 梅本弘


最終更新: Mon Sep 12 15:30:03 2011


 ここは、川俣から見てお勧め(カモ知れない)本を紹介するコーナーです。


どんな本なのか

 第2次大戦,ベルリンが戦場になったときに,そこに居た外交官の息子の日本人少年が何を体験し,何を見たのかを描いた小説です。勝手に空想した歴史モドキを書いたいわゆる架空戦記とは違います。主人公は,他のドイツ人少年達と同じように,国民突撃隊に参加して,速成の兵士としてソ連軍と戦います。その過程で,とんでもない体験を次々に経験することになります。対戦車ロケット砲の撃ち方から,タコツボ掘り,果ては人が足りないと言って戦車に乗せられて,ベテラン下士官から戦車砲の撃ち方を教えられて右も左も分からないまま実戦を経験してしまうという状況です。

 この本のもう一つの大きな特徴は,「となりのトトロ」で有名なアニメーション監督「宮崎駿」氏の推薦文が付いていることでしょう。帯には,「僕はおもしろかったんですけど,ほかの人はこの本を読むと目が点になって,何度も同じところを読んでしまって3年かかっても読み終わらないとか,読み始めた途端,頭がクラクラして気が遠くなって,気がつくと朝になっているとか言うんですが(笑い)」という宮崎監督の言葉が載せられています。この他,巻末に,宮崎監督の特別寄稿「妄想戦車論」がありますが,これも読むと「頭がクラクラ」するような内容です。

なぜイイのか

 戦争のことを知るためには,実際に従軍した人から話を聞くのが最も生々しくて良い,という意見は間違いです。記憶は風化するし,自分に不利なことは嘘をつくかもしれません。また,自分の主義主張に合わせて話をねじ曲げる場合もあります。更に,軍人時代の人間関係が尾を引いていて,本音が言えないというケースもあるようです。ですから,戦争の本当の姿を知りたいと思ったら,その場に居なかった者が,客観的な資料から状況を再構成するしかありません。本書は,まさに,その条件に適合するものです。

 戦争の現実というのは,けして,ただ一方的に悲惨なものではなく,かといって,ただ一方的に勇ましいものではありません。戦争であろうと,人はメシを食わねばならないし,服を着なければなりません。兵器も,壊れたら修理しなければなりません。敵弾が24時間飛んでくると言うこともなく,むしろ,撃ち合っていない時間の方が圧倒的に長いわけです。しかし,戦争状態が一種の異常状況であることは間違いありません。

 問題は異常状況において,人間はどのように日常生活を送り,状況に対処したかと言うことです。それは,戦争だけの問題ではなく,社会においていろいろな形で存在する異常状況(大震災など)に対する対処方法とも通じるものがあるわけです。

 そこで重要なことは,自らの首都の目の前に敵軍が迫ってきた状況でも,自分たちの街を守るために,必死の抵抗戦を繰り広げたという,ドイツ人の粘り強さです。おそらく,戦争以外の災害であろうと,ドイツ人は,必死に自らの街を守ろうとするでしょう。では,日本人は,この小説に描かれたドイツ人達と同じぐらい,必死に粘り強く,自分たちの街を守れるでしょうか?

読んで欲しい人

 戦争に興味がない人。人と社会に興味がある人。宮崎駿監督の作品のファン。

 念のために書き添えるなら,この本はあまり売れていないようです。これは,一般人はおろか,普通のミリタリーファンにも,この本の意義が理解されていないためだと思われます。そこから推測すると,「ドイツ軍って格好いい〜〜」と思える人が無理に読んでも分からない可能性は大きいと思います。そういう人は10年後に読んでみてください。


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作成:川俣 晶
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