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窓際パソコン物語


 1996年5月6日アップデート
 このページは、THE WINDOWS誌に連載された「窓際パソコン物語」の全文を収録しています。
初出:      THE WINDOWS誌(ソフトバンク刊)
         (1991年12月号より12回連載)
 見所は、「autumn 違うぞ。日本で、インターネットがぜんぜん普及していないのが悪い。はやく、autumn@pd.co.jpで電子メイルが届くような環境が欲しい!」のあたりでしょうか。一見当たり前のように見えますが、これが書かれたのは、1992年秋なんです。(ちなみに、pd.co.jpというドメイン名は取れそうにありませんので、このメールアドレスでオータムにメールが届くことはあり得ないでしょう。
 なお、これは編集部に渡された原稿ですので、実際に誌面に出たものとは異なります。
窓際パソコン物語 第1話 1991年12月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。

撫子 「ねえ、いまどのパソコンを買ったらいいの? あ、わたしワインね」
純  「やぶからぼうに、どうしたんだよ。せっかくのデートなのに。僕にはビ
  ール中ジョッキ」
撫子 「デート? いつ、これがデートになったのよ」
純  「あれえ? 僕はてっきり。だから、こうやって、おしゃれして来たのに」
撫子 「どこがおしゃれなのよ」
純  「ちゃんとスーツ着て、ワイシャツもおろしたて、下着も新しいのをわざ
  わざ」
撫子 「ふーん。下着ねえ」
純  「あわわ、そうじゃないったら」
撫子 「まったく、オタクなんだから。ブランドものでも少しは着てきてみなさ
いよ」
純  「そんなの、高いだけでもったいないじゃないか」
撫子 「あー、もういらいらするわ。センスのいいものを買うと、高く付くのは
当然でしょう?」
純  「そうとばかりは限らないさ」
撫子 「オタクのセンスなんて、あてにならないわ」
純  「おっと、きたきた。とりあえず、乾杯」
撫子 「乾杯」
純  「そう言わないで、聞いてくれよ。パソコンの世界ではね、アメリカのハ
  イセンスなパソコンが、日本製のパソコンよりも安く買えるようになりそう
  なんだ」
撫子 「アメリカなんて、大したセンスじゃないわよ。今はやっぱり、イタリア
ね」
純  「まあまあ、ともかく、アメリカはパソコンの先進国なんだから。そこの
  センスがいちばんいいはずだよ」
撫子 「まあいいわ。そういうことにして、話しを進めて」
純  「よし。日本では、PC−9801ばかりだけど、アメリカでは、IBM
  −PCとその互換機がほとんどなんだ」
撫子 「うちは、PC−9801よ」
純  「いままで、どうして、日本でIBM−PC系のパソコンが売っていなか
  ったかというと、日本語が使えなかったからなんだな」
撫子 「じゃあ、いまは日本語が使えるわけ?」
純  「そう、今はDOS/Vがあるからね」
撫子 「あー、ついに出たわ。出ると思っていたけど、出たわ」
純  「どうしたんだい?」
撫子 「専務よ。パソコン雑誌を読んで知ったかぶりする専務が私に言うのよ」
純  「へえ、なんて?」
撫子 「これからはDOS/Vの時代だから、こんな小さな島国でしか通用しな
いパソコンなんて、はやく捨ててしまえって」
純  「それは過激だね」
撫子 「かわりのDOS/Vパソコンなら、安く買えるから、今よりずっと高性
能の奴を買ってくれるっていうのよ」
純  「それはよかったじゃないか。僕も、はやくRA2を捨てて486AT互
  換機が欲しいな」
撫子 「分かってないわね」
純  「何が?」
撫子 「私はパソコンの性能なんて、どうでもいいの」
純  「そんなことないよ。帳票の打ち出しに一晩かかるんだろう? もっと速
  くなれば、ずっと楽になるって言っていたのに」
撫子 「そんなの、帰る前にセットしておけばそれでいいの」
純  「でもねえ」
撫子 「まったく、純てば心の底までオタクなんだから」
純  「どういう意味だよ」
撫子 「考えてもみなさいよ。うちみたいな零細企業はね、事務処理がとどこお
ったら、それだけも危ないの」
純  「うん」
撫子 「もし、パソコンを入れ替えて、トラブルが起こったら、どうするのよ」
純  「うーん」
撫子 「誰が責任を取ってくれるのよ。だいたい、最初にパソコンを導入したと
きの苦労は忘れてないわよ」
純  「そうだね、ずいぶん助言もしてあげたね」
撫子 「あんな苦労を繰り返すのかと思うと、我慢できないわ。順調に動きだす
まで、1年もかかったのよ」
純  「分かったよ。僕も出来るだけのことはするからさ」
撫子 「あー、わかってないわ。あのときは、まだ、年配の事務の人がいて、パ
ソコンがトラブると、手書きで事務を処理してくれたの。その人は、もう辞めち
ゃったのよ」
純  「そうだ、いい考えがある。ちゃんと動くようになるまで、今のシステム
  と、平行して動かせばいい」
撫子 「それって、パソコン入力の手間が2倍になるだけじゃない。馬鹿みたい」
純  「でもさあ、そんなことを言っていたら、マシンの入れ替えなんてできな
  いよ」
撫子 「だから、私は、パソコンを入れ替えたくないの」
純  「えー、もったいないなあ」
撫子 「だって、今年1年で、会社のパソコンは凄くパワーアップしたのよ。ハ
ードディスクなんて、あと3年は持つだけの容量はあるし、レーザープリンター
のおかげで、今ではどこの部署からもプリンとアウトが汚いって文句が来なくな
ったもの。これ以上、わたし、何も求めてないわ」
純  「うーん、困ったなあ。そうそう、ついに1−2−3のWindows版がでる
  らしいよ」
撫子 「ほんと? どんなふうになるの?」
純  「まったく、撫子は、1−2−3と一太郎の話しだけは興味を持つんだか
  ら」
撫子 「いいじゃない。仕事で毎日使っているんだから」
純  「うん。まあ、要するに、Windowsに対応して、マルチウィンドウになっ
  て、広いワークシートが使えるらしいよ」
撫子 「いいわ、それいいわ」
純  「え?」
撫子 「いま、メモリーの関係で入りきらない表があるのよ。しょうがないから、
分割して計算させているけど、一度に計算できたらいいわあ」
純  「そうだろう? でも、Windows版ということは、高性能CPUと大容量
  のメモリーが必要だよ」
撫子 「買わせるわ、会社に」
純  「それだよ。それ。どうせ買うんなら、安くてハイセンスのIBM−PC
  互換機にすればいいじゃないか」
撫子 「駄目よ。私は知っているのよ。ソフトも周辺機器も全部買い換えないと
いけないんでしょ。問題外だわ」
純  「それでも、IBM−PC互換機は安いから、同じぐらいの出費で済むか
  も」
撫子 「同じ出費なら、わたし、98を選ぶわ」
純  「もう、頑固だなあ」
撫子 「私だって、ちゃんと調べたんだから」
純  「調べたって何を?」
撫子 「まず、あのキーボード。あんな変態配列はいやよ」
純  「変態?」
撫子 「シフトの2が@記号になるなんて、冗談じゃないわ」
純  「でも、世界の標準だよ」
撫子 「だったら、世界が間違っているのよ」
純  「あのねえ」
撫子 「どうせあなたは知らないでしょうけど、IBM−PCなんて影も形も無
いころから、NECのパソコンは、シフトの2は、”記号なの。あとから出てき
て、世界の標準なんて、笑わせるわ。TK−80BSを見なさい」
純  「TKなんとかって、なに?」
撫子 「無知ねえ、初代PC−9801の前の前のその前のずっと昔のマシンよ」
純  「まあまあ、押さえて押さえて」
撫子 「なによ。最初に買った機械がPC−9801Fのくせして、私に意見し
ようって言うの?」
純  「撫子、撫子、まわりの人が見てるって」
撫子 「わたしは、ビットインでTK−80の16進キーボードで遊んでいたの
よ。ビットイン原宿のマドンナ・撫子とは私のことよ」
純  「わかった、わかったってば。ったくいつの時代の話だよ」
撫子 「なんか言った?」
純  「こんなに酒癖が悪いとは思わなかったな」
撫子 「あー、わたしってなんて不幸なのかしら」
                           おわり

窓際パソコン物語 第2話 1992年1月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
真理(まり)・・・・・女性。22歳。撫子の後輩でプロのグラフィクス・デザ
イナー

撫子 「ふう。やっと帰ってこれたわね」
純  「いやあ、毎度データショウは凄い人だものね。あ、生ビール大ジョッキ
  三つね」
撫子 「ちょっと待ってよ。私はビールは飲まないの。私は、ビールじゃなくて、
ワインをちょうだい」
純  「まったく、居酒屋で気取ってしょうがないじゃないか」
撫子 「なんですって?」
純  「あ、いや、なんでもないって」
真理 「あの、私は中ジョッキでいいわ。でも、撫子先輩と彼氏って、いつもこ
うなんですか?」
撫子 「彼氏じゃないわ、こんなオタク」
純  「そりゃあないよ、とほほ」
撫子 「ほんっっっっとに、この人、オタクなのよ。いつもパソコンの話ばっか
りでね。今日だって、1日中一緒にいて気がつかなかったの?」
真理 「そりゃあまあ、データショウって、パソコンのイベントみたいなものだ
から、パソコンの話ばかりでも違和感は無かったけど」
撫子 「そこよ。あんな調子で、毎日やられてごらんなさいよ。いいかげん、う
んざりするわ」
純  「まあまあ、そこは押さえて。せっかく、データショウを見てきたんだか
  ら、少しはその話しもしようよ」
撫子 「調子がいいんだから」
純  「しかし、NECもまた、馬鹿なパソコンを出したね。いくら480ライ
  ンにしたって、DOS/Vが走らなければ、何の意味もないのに」
真理 「どすぶい? なにそれ」
撫子 「飲み物が来たわ、とりあえず乾杯しましょう」
全員 「かんぱーい」
真理 「で、どすぶいってなーに?」
純  「まったく、今日ずっと説明したじゃないか。世界の標準IBM−PCで
  日本語が使えるそれは偉いソフトなんだ」
真理 「で、IBM−PCで日本語が使えると、何かいいことがあるわけ?」
純  「そりゃあるさ。何しろ、追加のハードもなくて、アメリカで売っている
  パソコンをそのまま日本語で使えるんだ」
真理 「あの、それのどこが面白いの?」
純  「だってさ、アメリカの最先端のソフトが使えるんだよ。他のパソコンで
  は、互換性が無いから、そんなことできないだろう?」
真理 「でも、私の会社では、アメリカから最新のソフトを取り寄せて、使って
いるわよ」
撫子 「あなたのことも、IBM−PCなの?」
純  「いやあ、進んでいるんだな」
真理 「違うわよ。Macなの。Macintoshなの」
純  「ひえー、Macユーザーだあ」
真理 「わたしは、ただ仕事でMacを使っているだけの素人だけど、アメリカ
で売っているハードに、ソフトを入れるだけで日本語が出るのは、Macでは当
たり前なんだけど、そうじゃなかったの?」
純  「ガーン」
撫子 「どうやら、当たり前じゃなかったみたいね」
真理 「それに、アメリカの最先端のソフトだって、どんどん取り寄せて使って
いるけど、それもできなかったの?」
純  「ガガーン」
撫子 「これも、どうやらできなかったようね」
真理 「やっぱり、DOSパソコンて駄目なのね。うちの社長が、IBM−PC
マニアが98ユーザーを馬鹿にするのは、目くそが鼻くそを笑っているようなも
んだって言っていたけど、本当なのね。Macに比べれば、どっちもゴミなんだ
って」
純  「グサグサ」
撫子 「どうやら、本当らしいわね」
純  「そ、そんなことはないぞ」
撫子 「あ、立ち直ってきた」
純  「ともかく、  IBM−PC互換機は安くて高性能なのが取り柄なんだ。
  Macよりも、安くてより性能のいいマシンが買えるよ」
真理 「でもねえ、うちは、仕事だから、仕事に使えるものしか買わないのよ」
純  「だったら大丈夫だよ。ウィンドウズの上で、ページメーカーだって完全
  さ」
真理 「うーん、PageMakerは手軽だけど、それじゃ対応できない仕事もあるか
ら、QuarkXPressが動かないと困るわ」
純  「くおーくってなに?」
真理 「何も知らないのねえ。DTPのソフトよ。それに、Macのフロッピー
を印刷屋に持っていくと、ちゃんとライノので打ってくれるけど、IBM−PC
のフロッピーでも大丈夫かしら」
純  「らいのって、なに?」
真理 「2000DPI以上で版下を作ってくれる機械よ。何も知らないのね、
あなた」
純  「に、にせんでぃーぴーあい。ガーン」
撫子 「また死んでしまったようね」
真理 「そうね。かわいそうに」
純  「ふっかあーつ。確かにMacには負けるかもしれない。でも、98なん
  かを買うぐらいなら、IBM−PCの方がいいと思うだろう?」
真理 「良く分からないけど、98の方がいいような気がするわ」
純  「えーっ、どうして!」
真理 「だって、あの新型の98って凄かったじゃない。ビデオから画像取込し
て、1670万色で表示できるなんて。これは、Macの危機かもしれないわ。
マルチメディア・プレゼンテーションのジャンルでのMacの独占が崩れるかも
ね」
純  「どういうこと?」
真理 「だって、画面が640×480ドットなんでしょう? これって、カラ
ーのMacと同じだから、きっと、Macの画像データを使うことを意識してい
るのね」
純  「だから、あれはVGAの真似をして」
真理 「ぶいじーえーだか何だか知らないけど、98はMacのライバルになる
かもしれないってことよ。この対決には、IBMなんて、関係ないの」
純  「そんなことを言っても、IBM−PCだって、マルチメディアエクステ
  ンションが」
真理 「そんなこといっても、それ、いつ発売されるのよ。Macは何年も前か
らやっているのよ。98だって、発売が始まるんでしょ? そんないつ手に入る
か分からないものなんて、関係ないわ」
純  「それでも負けないぞ。IBMは偉いんだ。IBMは絶対だ。IBMは神
  なのだ」
撫子 「しょうがないわね。酒癖が悪いんだから。いいかげんにしなさいよ、純」
真理 「撫子先輩、なんか、宗教みたいになってませんか?」
純  「何を言っているんだ。Macユーザーこそ、宗教じゃないか」
真理 「そりゃ、宗教みたいな人もいるけど、実際にできることとできない事が
ぜんぜん違うじゃない」
純  「ああ、ぜんぜん分かってない。IBM−PCを普及させる文化的な意義
  が」
真理 「意義もなにも、仕事に使えないものは、買えません」
撫子 「二人とも、いいかげんにしてよ。大人げない」
真理 「ちょっと待っててください、撫子先輩」
純  「そうだ、女は黙っていろ」
真理 「なんですって、その言い方は、女性蔑視だわ」
撫子 「二人ともちょっと待ってよ」
純  「けんけん」
真理 「がくがく」
撫子 「あー、わたしってなんて不幸なのかしら」
                           おわり

窓際パソコン物語 第3話 1992年2月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。

撫子 「ねえ、またこの店なの?」
純  「何か、問題あるかい? あ、僕はビールね」
撫子 「だってさあ。私はワインちょうだい。たまにはもっと豪華な場所に行き
たいわ」
純  「豪華な場所っていうと?」
撫子 「こんな居酒屋じゃなくて、高層ホテルの最上階のレストランで、ワイン
かなんかを楽しみながら、お食事なんかをしてみたいわ」
純  「なに、ホテル……。そうかあ、撫子それならそうと、はやく言ってくれ
  なくちゃ。では、さっそくホテルの部屋を予約してと」
撫子 「ちょっと、何を考えているのよ。お食事するのになんで部屋がいるのよ」
純  「たはは、やっぱりそういう意味じゃないか」
撫子 「すぐにそんなこと考えるなんて不潔だわ」
純  「分かったよ。僕が悪かったって。でも、ホテルの食事なんて、お金が掛
  かるだろう? そうおいそれとはね」
撫子 「ふーん、そお。さっき、『みゆきのLDセット10枚組、注文しちゃっ
た。はっはっは。うれしいな』と言っていたのは、誰なのよ。そんな高いもの買
うお金があったら、ホテルぐらい、どうってことないでしょう」
純  「ギクッ。いや、その、あれは限定発売だから、買っておかないと、なく
  なってしまうんだ」
撫子 「この私の青春の日々だって、過ぎ去ったら戻ってこないんだから」
純  「まあまあ、おっと。飲み物が来た。かんぱーい」
撫子 「何が乾杯よ」
純  「お酒も来たことだし、話を変えよう」
撫子 「はいはい、どうせオタクな話なんでしょ」
純  「ひどいなあ。はじめからオタクだって決めつけるのは良くないよ」
撫子 「ごめん。で、何の話?」
純  「いやあ、Windowsの話なんだけどさ」
撫子 「やっぱり、オタクな話じゃない」
純  「ひどいなあ。これは仕事の話なんだよ」
撫子 「分かったから、話なさい。聞いててあげるから」
純  「うちで眠っていたマキシーノートが、けっこう仕事に使えるようになっ
  たんだ」
撫子 「マキシーってなに?」
純  「AX仕様のノートパソコンの名前なんだ。三菱のMAXYNOTE386。なにせ、
  AXだからさ、VGAのモードが無くて、使い物にならないんで、放置して
  あったんだ」
撫子 「思い出した。それ、ずううううっと昔に、世界標準のAXだって私に自
慢したパソコンじゃない」
純  「いやあ、その直後にDOS/Vの話が本格化してさ、結局ほとんど使っ
  てなかったんだ」
撫子 「ずいぶんと、もったいないことをしたのね」
純  「ところがさ、ちょっとした異変が起こったのさ」
撫子 「何よ、異変て」
純  「Windowsのアプリケーションをインストールするとき、機種を指定する
  ものがたくさんあるだろう?」
撫子 「えーと、確かPageMakerがそうだったわね」
純  「ほとんどのソフトで、選択できる機種の中にAXが入っているんだ。異
  変が起こったのは、WX2Winを買ってからさ」
撫子 「それって、かな漢字変換FEPの?」
純  「そう、それ。だけどWindows対応だから、1パッケージで、全機種対応
  しているんだ。AXでもOKさ」
撫子 「ふーん。私の会社は98だから関係ないわ」
純  「それで、Windowsが3.0aになって、かな漢字変換の反応速度が速くな
  っただろう? WX2Winとライトを使うだけで、すいすい文書が入力で
  きちゃうんだ」
撫子 「ふーん、それで?」
純  「あとは、Excelの3.1だって、問題なくインストールできるし、
  Windows関連のソフトなら問題なく動くもんね。今度は、WinTermを入れて
  みようと思っているんだ。もし、これがうまく行ったら、どこでも情報にア
  クセスできる、ステーショナリーパソコンにできるんだ」
撫子 「それで?」
純  「『それで?』ってことはないだろう。使い道もなく放置されていたパソ
  コンが生まれ変わったんだよ。凄いじゃないか。Windows時代万歳だよ。こ
  れで、IBMはおろか、98とさえ互換性のなかったパソコンも活用できる
  ぞ。そうだ、先輩のとこに、使ってない32ビットのF*−Rがあったな、
  あれ借りてきて利用しようかな」
撫子 「純、よーくわかったわ」
純  「そうか、分かってくれたか。Windowsの偉大さを」
撫子 「そうじゃないわよ。あなたが、貧乏症だってことよ。こんな性格なら、
豪華なホテルのディナーを期待しても無駄ね」
純  「あー、違うよ。それは」
撫子 「どこが違うのよ」
純  「うーん、えーと、その……。そうだ、これは地球環境を守るためのリサ
  イクルなんだよ」
撫子 「いかにも、でまかせって感じね」
純  「本当だよ。先輩のとこなんかさ、仕事の関係で、98ともIBM−PC
  とも互換性のないパソコンばっかり揃えていてさ、市販のゲームも無いって
  ぼやいていたのが、これで解決するんだ。凄いことじゃないか」
撫子 「ゲームのためって言うのが不純だわ」
純  「ゲーム以外だって、使いたいソフトがなかなか移植されないケースも多
  いだろう? Windowsなら、そういう問題がクリアされるんだ」
撫子 「どっちにしても、うちには関係ない話ね」
純  「そんなことないさ。君にもずごく関係があるんだ」
撫子 「どう関係があるのよ」
純  「こうやって、パソコンにかかる費用を抑えて、お金を貯めれば、ホテル
  でのお食事だけでなく、その後の一晩過ごす部屋だって借りられるんだぞ」
撫子 「一晩過ごす部屋ですってえ?」
純  「しまった、つい本音が……」

撫子 「純って、本当に頭の中まで不潔なんだから」
純  「ごめん。君の気持ちを考えなかった僕がいけなかったんだ」
撫子 「え? 今日はいやにしおらしいのね」
純  「撫子だって悪いんだ。君が魅力的すぎるから、ついそんなことも考えち
  ゃうんだよ」
撫子 「あら? え? そうかしら……(ポッ)」
純  「性格が悪くったって、趣味がひねくれていても、」
撫子 「悪かったわね」
純  「それでも、僕にとっては、君しかいないんだ」
撫子 「純……、そこまで私のことを?(ポッ)」
純  「君のためなら、20MHzの386マシンぐらい、いつでも諦められる
  とも」
撫子 「ちょっと待って。それじゃあ、私はパソコンと比較されているわけ?」
純  「怒らないでよ。僕としては、撫子、君を誉めているんだからさ」
撫子 「ふーん、じゃあ、486マシンと私だったらどっちを選ぶ?」
純  「何を馬鹿なことを言っているんだ、撫子。決まっているじゃないか」
撫子 「そうなの。今までただのパソコンオタクだと思っていたのに。そこまで、
私のことを?」
純  「撫子に、486マシンほどの魅力があるわけないじゃないか」
撫子 「(ポカポカ)」
純  「何を怒っているんだよ、痛いじゃないかあ」
撫子 「私にはパソコンほどの値打ちもないっていうの?」
純  「ごめん、価値観の基準として、パソコンしか思い浮かばなかったんだ。
  CPUで言われるのが嫌なら、 ディスプレイの規格でいこうか。800×
  600のSVGAぐらいに君は美しい」
撫子 「ちょっとでも、あなたがオタクじゃないと思った私が馬鹿だったわ」
純  「あ、それでも駄目? それじゃあさ、ビデオデッキでやろうか。君は、
  S−VHSほども美しいよ」
撫子 「あー、わたしってなんて不幸なのかしら」
                           おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第4話 1992年3月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
山村(やまむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純のオタク方面の指導者。
半村(はんむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純の人生方面の指導者。
鞍手洲子(くらてしゅうこ)・・・女性。29歳。山村と半村と付き合っている
が、どちらとも結婚する気はない。

山村 「いよう、純じゃないか」
純  「山村先輩! 半村先輩! 鞍手さんも、おひさしぶりです」
半村 「ずいぶん頑張っているらしいじゃないか」
純  「ええ、まあ、日本のパソコン界を救うために、DOS/V推進には協力
  していますけど」
半村 「いやいや、そっちじゃなくて。まだ、撫子とは付き合っているんだろう?
どうだ、まだ結婚しないのか?」
純  「半村先輩、 そんなこと言わないでくださいよ。僕には、50MHzの
  486マシンを買うという大きな夢があるんです。まだまだ、結婚なんてし
  てられませんよ」
山村 「うんうん。その気持ちはよく分かる」
半村 「いかーん。そんなのは間違っているぞ。いいか、純。青春は2度と帰っ
てこないんだ。それに考えても見ろ。おまえのようなオタク少年の相手をしてく
れる女が撫子のほかに出てくると思うか?」
純  「ちょっと待ってください。僕はもうオタク少年じゃありません」
鞍手 「じゃあ、オタク青年ってとこだろうねえ」
純  「鞍手のおねえさん、そりゃひどいですよ」
半村 「いいや、ひどくないぞ。考えてもみろ、このまま、オタク中年になって、
オタク老年になって、そのままオタク故人になってしまうつもりか?」
山村 「生涯1オタク、悪くない発想だがなあ」
半村 「葬式で、故人は生涯1オタクを通しました、などと読み上げられて、涙
を流すのは親兄弟ぐらいなものだとは思わないか? そんな悲しい葬式を上げた
くなかったら、オタクなんざ、やめちまえ」
山村 「そうか、オタクの葬式かあ。僕ならPC−8001をかたどった墓石の
下に眠りたいなあ」
純  「僕ならやっぱり、タワー型のPS/2かな」
山村 「いやいや、ここはウォズニアクのサイン入りApple][GSなんていうのは
どうかな」
純  「デザイン的にはX68000のマンハッタンシェイプもいいですね」
山村 「ああ、それは目の付け所がシャープだな。シャープなら、MZ−80K
のあの直線的なデザインがいいぞ」
純  「それだったらですね、」
半村 「えーい、こいつら。人の話をちゃんと聞けというのに」
撫子 「おまたせー。あら、鞍手さん達。おひさしぶりです」
鞍手 「おや、撫子じゃないか。元気にしてたかい?」
撫子 「ええ、まあ私は元気ですけど。純は見ての通りのオタクのままで」
鞍手 「今日は純とデートかい?」
撫子 「そんなんじゃありません」
鞍手 「なら、みんなで飲みにいこうじゃないか」
撫子 「そりゃあ、構いませんけど」
鞍手 「それじゃあ、おまえたち。撫子と純もつれて、飲みにいくよ」
半村 「がってん」
山村 「しょうち」

純  「というわけで、例によってまた居酒屋に来てしまいました」
鞍手 「なにをぶつぶつ言っているんだ。ほらほら、乾杯だよ」
撫子 「わたし、ビールよりもワインがよかったんだけど」
鞍手 「あんたも変な趣味しているねえ、居酒屋でワインなんて。変な趣味どう
し、オタクの純とお似合いだよ」
撫子 「ほっといてください」
鞍手 「さあさあ、乾杯だよ」
一同 「かんぱーい」
純  「うーん、ビールがうまい」
山村 「ときに、純。おまえ、DOS/V運動になんか、かかわっているのか?」
純  「うん。山村さんはDOS/V使わないんですか?」
山村 「実は、あまりにも安いもんで、僕も1台買うことにしたんだけどな」
純  「それはいいことです」
山村 「でも、一つ言っておくことがあるぞ」
純  「なんですか?」
山村 「いわゆるDOS/Vアプリを買うつもりは一切ない。使うのは、MS−
DOSジェネリックの奴と、 Windowsアプリケーションだけだ。つまり、98で
も走る奴だけだな」
純  「どうして? 一太郎ぐらい、買っておいても損はないと思いますけど」
山村 「これでも、98の一太郎の正規ユーザーだぞ。同じものが2本も買える
か。 それに、 僕は日本語Wordを使うからいいんだ。こいつは、98でも
DOS/Vマシンでも、同じプログラムが走るから都合がいいんだ」
純  「そんなこといっても、エディタはどうするんですか? かな漢は? 通
  信ソフトは?   それにフリーソフトの開発にはMS−Cだって必用でしょ
  う?」
山村 「甘いな、純。すでに僕の98で動いているWX2WinとWinTermとQuick
C  for Windowsをそのまま持っていけば動くんだ。僕としては、今まで使ってき
たソフトや環境を捨てるのはいやだからね」
純  「でも世界の標準が・・・」
山村 「いいか、純。システムっていうのはな、トータルで評価しないと、見誤
るぞ」
純  「トータルって、何のトータルなんですか?」
山村 「純、パソコンは道具だ。道具は使われるためにある。いくら優秀な道具
でも、使えないものは捨てられることになる。分かるな」
純  「それはまあ」
山村 「じゃあ、今のDOS/Vマシンが、本当に普通のパソコンユーザーにと
って、使えると思うか?」
純  「百歩譲っても、98に劣るとは思わないけど」
山村 「そうじゃない。優れているか劣っているかじゃないんだ」
純  「え?」
山村 「例えば、DOSのconfig.sysだ。DOS/Vマシンだと、98と違う約
束がたくさんあるだろう? 98からDOS/Vへ移行するときには、そういっ
た追加の知識が要求されることになる。表に出てこない隠れたコストというわけ
だ」
純  「たしかに、そういう面はあると思いますが。でも、わざわざ、そういう
  ことを勉強してでも乗り換える魅力はあると思いますけど」
山村 「それがオタクの発想だ。普通、勉強なんていうのは、大の大人がやるも
んじゃない。一度覚えて、使えるようになった知識は、みんな大事にしているん
だ。だから、今の程度では、98からDOS/Vに移行することはあり得ないと
思うね」
純  「そんなあ。未来は暗黒だあ」
山村 「まあ、話は最後まで聞け。僕も、この間までは、そういう考えだった。
つまり、新しい勉強なんてしたくないから、DOS/Vマシンは買わないとね。
でも、ある日、それが変わったんだ」
純  「何があったんですか?」
山村 「普段使っているプログラムが、ほとんどみんなWindowsで動くことに気
がついたんだ。もし、全部Windowsで動いてくれたら、別に98じゃなくても構
わないはずだと気がついたんだ」
純  「なるほど」
山村 「Windowsアプリケーションだけで使うなら、config.sysも、Windows
のセットアップが自動作成したもので十分からね。config.sysの知識もいらなく
なるし」
純  「そうか。  98からDOS/Vに乗り換えるのは無理でも、98上の
  Windowsから、DOS/V上のWindowsへの乗り換えは簡単にできるんだ」
山村 「その通り。Windowsというクッションを間に挟めば、98からDOS/
Vマシンへの乗り換えは可能なのだ。これが僕の出した結論だ!」
純  「す、凄い。さすがは山村先輩」
撫子 「どこが凄いのよ。ただのオタクの会話じゃない」
鞍手 「こういうのは、けっこう子供っぽくて、かわいいと思うけどね」
撫子 「だったら、山村さんと結婚する?」
鞍手 「やめとくよ」
純  「ふつふつとファイトが沸いてきたぞ。やっぱり、本物のオタクは凄いな
  あ。見ていてくれ、撫子。僕も山村先輩を見習って、オタクの中のオタク、
  オタキングを目指すんだ!」
山村 「どっかで聞いた台詞だけど、心意気はよしとしよう」
半村 「純の奴、まるで分かってない。こりゃ、2次会で、たっぷり順に説教す
る必用があるな」
鞍手 「まあ、世の中、なるようにしかならないわね」
撫子 「あー、わたしってなんて不幸なのかしら」
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第5話 1992年4月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。

純  「かんぱーい」
撫子 「何が乾杯よ。いつもの居酒屋で」
純  「まあまあ、実は面白い話があってさ」
撫子 「ストーッッッッッップ。オタクな話は今日は絶対にいや!」
純  「どうしたんだい、いつもの撫子と違うぞ」
撫子 「違ってないわよ。いつだって、オタクな話は嫌いなので。単に、我慢で
きる日と出来ない日があるだけよ」
純  「出来ない日って、あの日かな?」
撫子 「違うわよ。オタクのくせに、そんなこと言われる筋合いはないわ」
純  「何の関係があるんだか」
撫子 「ともかく、ずえっっっっったいにオタクな話はだめだからね」
純  「そりゃあ残念だなあ。NORTON DESKTOPの話でもしてあげようと思ったの
  に」
撫子 「ノートとデスク? ならちっともオタクじゃないじゃない」
純  「違うって。 NORTON DESKTOP FOR WINDOWS。れっきとしたWindowsのソ
  フトさ」
撫子 「純……。あなたって人は……。人がオタクの話はいやだって言っている
のに」
純  「うわあ、撫子が怒った! 誤解だよ、誤解。その話はしないからさ」
撫子 「最初からしなければいいのよ」
純  「そうだなあ、今朝の新聞の話でもしようか」
撫子 「してもいいけど、読者に届く頃には風化していると思うわ」
純  「読者ってなんだい? ぼくたちの会話を録音して雑誌にでも書いている
  奴がいるのかい?」
autumn「ぎく」
撫子 「なんでもないわ」
純  「でさあ、今朝の新聞にIntelがCPUのバリエーションを増やすっ
  て発表があったって記事があってね。  はやく586が欲しいなあ。倍速
  486も欲しいなあ」
撫子 「純、オタクの話はしないでって言っているのに」
純  「だって、新聞の話ならしてもいいって撫子が言ったじゃないか」
撫子 「わかったわよ。じゃあ、一つだけ、オタクな話をしてもいいわ。いいこ
と、一つだけよ」
純  「そうだなあ、じゃあ、とびきりオタクな話をしなくちゃ」
撫子 「あー、言うんじゃなかったわ」
純  「日本語のWindowsに、WIFEMAN.INIってファイルがあるんだけど、この
  中にキャラクターセットのリストがあるんだ。  でね、この中に、シフト
  JISなんかと並んで、『はんげうる』っていう変なのがあってね」
撫子 「はんげうる? それってハングルのことじゃないの?」
純  「ガーン、なんで撫子は分かるんだ?」
撫子 「まさか、純って、そんなことも知らなかったの?」
純  「いやあ、このあいだ、人から教えてもらってはじめて知ったんだ」
撫子 「じゃあ、ハングルって、どこの国の言葉だか知っているの?」
純  「えーと、えーと、えーと」
撫子 「もしかして知らないのお?」
純  「思い出した。韓国だよ」
撫子 「その通りよ。思い出すのに苦労したみたいね」
純  「はははは。いやあ、日本独自の仕様かと思っていたら、韓国でも通用す
  るように作ってあるんだなと感心したよ」
撫子 「だいたい、日本人は、アジアの事をしらな過ぎるのよ。アメリカだのヨ
ーロッパのことは、関係ないことまで知っているのにね」
純  「そんなことで怒るなんて。まさか、撫子って、韓国人だったの?」
撫子 「ほら、そうやって、差別を始める」
純  「あれ? 韓国人って差別されているんだ。知らなかったなあ」
撫子 「無知ねえ。あなたみたいな、国際感情オンチが日本の恥なのよ」
純  「で、撫子は、韓国人なのかい?」
撫子 「日本人です」
純  「じゃあ、撫子、韓国が好きなの?」
撫子 「私が好きなのは、ネパールよ。インドもいいわね。アメリカとかヨーロ
ッパは大嫌いなの」
純  「そうか。はじめて知ったよ。じゃあ、ネパール製のパソコンとかあった
  ら興味があるかい?」
撫子 「そんなものがあるの!? きっと、冷え切った合理主義的な冷たい機械
ではなく、神秘の力で動くんだわ」
純  「あのねえ」
撫子 「ねえ、どこにあるの?」
純  「そんなの、無いよ。言ってみただけ」
撫子 「ひどいわ、乙女の心をもてあそんだのね!?」
純  「誰が乙女だ、と言いたいところだけど、ここは抑えて。まあまあ、撫子。
  そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
撫子 「それより、パソコンって、なんとかならないの?」
純  「なんとかって?」
撫子 「みんな、アメリカ風じゃない。いいかげん、うんざりしているの」
純  「アメリカ風って、撫子の98は日本製だよ」
撫子 「そうじゃないわ。みんな横書きじゃない。わたしはね、ちゃんと縦書き
のできるパソコンが欲しいの」
純  「縦書きなんて、一太郎でもできるじゃないか」
撫子 「あれのどこが縦書きなのよ。私は、ちゃんと画面の中で、文字が縦書き
になるべきだって言っているのよ」
純  「そうだね、確かにMS−WORDでも、縦書きのWYSIWYGは実現
  されてないしね」
撫子 「純、なんとかならないの? このあいだ、後輩の真理から聞いたけど、
マッキントッシュには、画面上でも縦書きになるワープロソフトがあるっていう
じゃない。Windowsはどうなのよ!」
純  「いやあ、僕はまだ、そういうのがあるって話は聞いたことがないな」
撫子 「それに、メニューだって、メッセージだって、みんな横書きじゃない。
わたしはいやよ。全部縦書きがいいの」
純  「そこまでいくと、単なるわがままにも思えるけどなあ」
撫子 「そういうところに問題意識を持たないところが、問題なのよ。アメリカ
やヨーロッパの常識を、鵜呑みにして受け入れるだけ。そんなのは、もう、たく
さんなの!」
純  「何か訳がありそうだね。いったい、何があったんだい?」
撫子 「え?」
純  「いいから、話してごらん」
撫子 「実はね、高校の時のかっこいい先輩が、よりによって、アメリカの性悪
白人女と結婚してしまったのよ」
純  「なんか、それってアメリカ人への偏見じゃないかと思うけど」
撫子 「なんですって?」
純  「まあまあ」
撫子 「かっこいいのに、人を見る目がなかったのね。ああ、悲しいわ。しくし
くしくしく」
純  「なんだ、ただの逆恨みじゃないか。ひょっとして、撫子。その人が好き
  だったのか?」
撫子 「ええ。初恋の相手だったの。片思いだったけど」
純  「そうか。今夜はたぷっり付き合って、なぐさめてあげるよ」
撫子 「純ってやさしいのね。うれしいわ」
純  「君のアメリカコンプレックスを解き放つには、  やはり、たっぷりと
  IBM−PCの魅力を教えてあげるしかなさそうだからね」
撫子 「え?」
純  「さあ、僕の部屋に行こう。まだPS/55Noteしかなけいど、外部
  モニターにつないであるから、ゲームだってちゃんと走るし。例の「A列車
  でいこう」のAT版があればなあ、98だけがパソコンじゃないって証明で
  きるのにな。やっぱり、ゲームなんかじゃ軽く見られてしまうかなあ。ここ
  は一つ、逆立ちしても98では動かないZortech C++でも見せようか。そう
  そう、本家本元のNORTON DESKTOP FOR WINDOWSの美しい画面を見たら、もう、
  Windowsのプログラムマネージャーなんか、ばかばかしくって使ってられな
  いもんね。それに、ボールポイントマウスも快適だし。それとも、CHKDSKを
  走らせて、フロッピーにほんとに1.44Mバイトの容量があるところを見
  せようか。2.88Mのドライブがあれば良かったんだけどなあ。それとも、
  Excel  3.1の3次元グラフがぐるぐるまわるところを見せてあげよう。あれ
  を見たら、もう、DOS版の1−2−3なんてさ。あとは、あれだな。ちゃ
  んとWindowsの中で、   英語モードのDOSボックスと、日本語モードの
  DOSボックスが、一緒に走っているところも見せてあげるよ」
撫子 「一瞬でも純を信じたわたしが馬鹿だったわ」
純  「何をぶつぶつ言っているんだい。 さあ行こう。今夜はたっぷりPS/
  55Noteでなぐさめてあげるよ」
撫子 「あー、わたしってなんて不幸なのかしら」
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第6話 1992年5月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
山村(やまむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純のオタク方面の指導者。
半村(はんむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純の人生方面の指導者。
鞍手洲子(くらてしゅうこ)・・・女性。29歳。山村と半村と付き合っている
が、どちらとも結婚する気はない。

純      今夜はどうも、鞍手さんに誘っていただけるなんて光栄だなあ
撫子    どうも、お招きにあずかりまして
鞍手    いいんだよ。おまえたち二人を見ていると、退屈しなくて済むからさ
純      ぐさっっ。じゃあ、ただの退屈しのぎの僕達を呼んだんですかあ?
鞍手    冗談だよ。3割ぐらいはね
純      じゃあ、残りの7割は……
山村    純、そういうのを「考えたら負け」っていうんだ
半村    そうそう、姐さんのおごりで飲めるからラッキーと思わなきゃ男じゃな
        いぜ
純      そうはいっても、僕だってもう28ですよ。もうすぐ29になるし
半村    馬鹿野郎。男は30過ぎてからが本番だ。20代はまだまだガキさ。
純      半村先輩もそうなのかあ。みんな30過ぎると急に年齢のことを気にし
        始めますね
山村    ああ、言ってはならないことを……
半村    (ぷっつん)。純、今夜はたっぷりと鍛えてやるぞ。その場でヒンズー
        スクワット200回!
純      そんなのできるわけないですよ
半村    やるんだ!
純      うわー、たすけてー
半村    おいこら、待て、純! 男は身体が資本だぞ

撫子    確かに、見ていると飽きないですね。漫才みたいで
鞍手    撫子と純の漫才も、はたで見ていると飽きないけどねえ
撫子    ほっといてください

純      あーあ。半村先輩ったら、自分でヒンズースクワット始めて、勝手に疲
        れて寝込んじゃったよ
山村    ほっとけばいいのさ
純      そうですか。じゃあ。
山村    ときに、純。僕は怒っているんだ
純      なんですか? いきなり
山村    DOS/Vはタコだぞ。あんなもんが使えるか!
純      今度は、山村先輩に絡まれるのか。とほほ
山村    絡むとはなんだ。僕は事実を言っているまでだ。
純      とほほ。わかりましたよ。話を聞きます
山村    うん。それでいい。まず、DOS/VもOKと称するマシンを買ったん
        だ。486の33MHzだ
純      やったじゃないですか
山村    たしかにスペック上はな。で、まずそれをセットアップしたんだが
純      どうしたんですか?
山村    あれは、売り物とは言わん。ろくなマニュアルもついてないからな。鍵
        をアンロックしないとケースも開けないんだ。なのに、ケースの開け方
        も書いてないようなマシンを、普通のユーザーが買って使えるか?
純      まあ、互換機によっては、そういうものがあるでしょうね
山村    あんなもので、98に取って代わるなどあり得ないと断言するぞ
純      分かりました。それはきっと改善されます。少なくとも、ちゃんとした
        日本法人が出しているマシンなら、改善されるはずです。
山村    分かった。次の問題だ。DOS/Vをインストールしたが、スクロール
        させると画面がめちゃくちゃになってしまったんだ
純      ああ、サードパーティーのVGAだと、そういうことがありますね。そ
        ういうときは、/HSを付けて……
山村    それは隠しオプションだろうが。たまたま、DOS/V雑誌を買い込ん
        でいたから分かったけれど、普通の人には分からないぞ、あんなもの
純      まあまあ、それはそうなんだけど。隠しオプションがあるんだから、い
        いじゃないですか
山村    良くはないぞ。DOS/V雑誌も持ってなくて、質問する人もいないと
        きは、どうしたらいいんだ?
純      それはまあ、その……
山村    それだけじゃないぞ。キーボードだけは日本IBMの奴をつないで。そ
        れで、 Windowsをインストールしたんだが、キーボードが正常に動かな
        いんだな、これが
純      どういうことです?
山村    分からん。ただ、キーボードサブタイプをSDKのマニュアルで調べて、
        エディタでsystem.iniを書き換えて指定したら、ちゃんと使えるように
        なった
純      それはよかったですね
山村    良くない! だいたい、普通のDOS/Vユーザーが、SDKなんか持
        っているか? 日本IBMのSDKじゃないと、書いてないんだぞ。持
        っているとしても、そんな技術的な情報を読み取る能力があるか?
純      まあ、それは、そうなんですけど……
山村    それに、3.5インチ2HDの98のフロッピーは読めないし
純      IBM−PCの互換機なら、普通は読めませんよ
山村    それは諦める。しかし、PS/55noteは読み書きできるだろう?
純      できますね
山村    でも、あれは使い物にならないぞ。Windowsの中で、1.2Mと1.
        44Mのディスクに交互にアクセスすると、システムの動作がめちゃく
        ちゃになってしまう
純      あれ? そうだっけ
山村    おまえなあ、その程度のことも知らないのかあ? それで、よくPS/
        55noteを人に推薦できるなあ
純      いやあ、その。ぽりぽり
山村    あと、PS/55noteは遅いぞ。あの程度のスピードで、Windows
        が走りますってな宣伝をしないで欲しいな
純      それは、たしかに言えますね。かなり遅い
山村    最近思うんだけど、使い勝手からいくと、DOS/Vマシンよりも、
        AXマシンの方が良いんじゃないかと感じるんだけどな
純      それはまた、なんで?
山村    ズバリ、アメリカ製の、行儀の悪いVRAM直接触り放題のソフトでも、
        日本語モードで動く。しかし、DOS/Vでは動かない
純      それはしょうがないですよ。だって、AXは専用ハードを付けているけ
        ど、DOS/Vは全部ソフトでやっているんだから
山村    じゃあ、あれは何だ。AX−VGA/Sとかいうのがあるだろう。あれ
        もソフトだけで動いているぞ
純      そんなものがあるんですか?
山村    全部386CPUの仮想86モードでソフトウェアシミュレーションを
        やっている
純      たしか、そういうのなら、ありますよ。DOS/Vにも
山村    メーカー標準ではないだろう? それでは安心して使えないぞ
純      厳しいなあ、山村先輩は
山村    僕は当たり前の事を言っているだけだ
純      うーん

鞍手    何を喋っているかはぜんぜん分からないけど、あの二人の表情を見てい
        るだけで、退屈しないと思わないかい?
撫子    そうかしら。私にはオタクが二人で喋っているだけにしか見えませんけ
        ど
鞍手    それは、撫子は私なんかよりも、ずっとパソコンに詳しいからだろう?
撫子    そんなことはありません
鞍手    話の内容なんか気にしないで、二人の男の子が、好きなことを夢中で喋
        っているんだと思って見てごらんよ
撫子    男の子って年齢ですか。あの二人が
鞍手    おや。ああいうのが、男の子って思えないようじゃ、まだまだ、男を尻
        に敷くには早いか
撫子    私にはそんな趣味はありません

山村    いいか、純。それじゃあ、DOS/Vの決定的な問題点を指摘しよう
純      な、なんですか、いったい
山村    VGAしか積んでいないマシンでは、日本IBMのSDKに入っている
        CodeViewが動かないんだ
純      え? コードビューって、あのデバッガーの?
山村    そうだ。IBM独自の高解像度モデルでないと、動かないんだ。つまり、
        普通のIBM互換機では、CodeViewが使えないんだ。それだけ
        じゃない。      SDKの箱に書いてある対応機種の一つであるPS/
        55noteでも使えないんだ。高解像度モデルではないからな
純      どういうことです?
山村    ききたいのは、こっちの方だ。デバッガーも走らない環境に、どんな意
        味があるんだ。これなら、98の方がマシだぞ。少なくとも、98なら、
        普通の98を準備するだけで、CodeViewも動くぞ。
純      がーん
山村    僕、どこかの雑誌に「くたばれDOS/V」って連載でも始めようかな
純      ががーん

鞍手    おや、勝負は山村の貫禄勝ちってところのようだね。あんたの純の負け
        だね
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第7話 1992年6月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
山村(やまむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純のオタク方面の指導者。

山村    いよう、純じゃないか
純      うわー、山村先輩だあ!
山村    どうしたんだよ、おい
純      助けて! 見逃してください。お願いです
山村    おいおい
純      だって、  山村さんと議論したら負けちゃうんだもの。きっと、また
        DOS/Vをこき下ろされるに決まっているんだから
山村    なに? DOS/Vをこき下ろす? 誰が?
純      山村先輩が、ですよ
山村    なんで?
純      だって、先月、くたばれDOS/Vとか言っていたじゃないですか
山村    そういやあ、そんなこともあったなあ
純      そんなことも、って。あのですね。山村先輩のあの発言は、大ヒンシュ
        クものなんですよ。まじめなDOS/V推進派のマニアの人達からは
山村    なんだ、そんなことか。ばかばかしい
純      どこがばかばかしいんですか! せっかく、みんなで、IBM−PCの
        文化を日本に定着させようとしているのに、あんな水を差すようなこと
        を言ったりしたら、困るんですよ。
山村    わはははは
純      何がおかしいんですか?
山村    少なくとも、僕の家では、IBM−PC互換機文化はすでに定着してし
        まったぞ。よし、一緒に飲みに行こうぜ
純      あー。でも、実は撫子とここで待ち合わせなんだけど
山村    で、何時間、待っているんだ?
純      2時間と30分
山村    よし、光画部時間でも十分に遅刻だな。よし、僕と一緒に行こう
純      しょうがないですね。まあ、2時間半以上遅れてくることは滅多にない
        から。
山村    ちょっと待て。じゃあ、2時間半以上遅れてきたりするのか? 撫子は
純      最長で5時間遅れというのがありますけど。まあ、普段は、1時間から、
        2時間ぐらいの遅れかな?
山村    男の威厳という発想はないのかあ?
純      そういう山村さんはどうなんですか。鞍手さんに待たされることはない
        んですか?
山村    甘いな、純
純      え?
山村    姐さんが、そんな甘いと思うか? 姐さんが外出するときは、家まで呼
        びつけられて、出かける準備の手伝いをさせられるのさ。だから、待ち
        ぼうけなんてある訳ないんだ
純      山村先輩……。それこそ男の威厳が無いじゃないですか
山村    よし、じゃあ飲みに行くぞ!

山村    かんぱーい
純      かんぱい
山村    うーん、ビールがうまい
純      ははは、それは良かったですね
山村    何を小さくなっているんだ
純      そんなこといっても、何言われるか分からなくて、恐いですよ
山村    そうだなあ、うちのQちゃんの話でもするか
純      Qちゃん?
山村    Qレスト486/33っていうんだ。うちのIBM互換機はね
純      なるほど
山村    Qちゃんはいいぞぉ
純      また、DOS/Vなんていらない。英語モードでしか使わないとか言う
        んでしょ
山村    いや、考えが変わった。
純      え?
山村    日本語Windowsを立ち上げるには、DOS/Vが必要だ。だから、
        DOS/Vには立派に存在意義がある。無価値だという奴は許せん
純      あのお、先月と言っていることが反対なんですけど
山村    そうかあ? 僕は思った通りのことを言っているだけなんだがなあ
純      頭が痛い
山村    やっぱりソフトだよ。まず、最近、文章を書くのにエディタを使うのを
        やめた
純      え? 意味が分からないんですけど
山村    じれったいなあ。ワープロを使っているんだよ。MS−WORD。もと
        もと、エディタはプログラムのソースの編集用のツールだろう? それ
        で文章を書くことは、本当は異常なことなんだ。
純      いやあ、ワープロで文章を書く人はめずらしいもので、一瞬分からなか
        ったんですよ
山村    なんと嘆かわしい。WORDのアウトライン機能と表現力に味をしめた
        ら、もうエディタなんて使えないぞ。Qちゃんなら、ストレスなしにき
        びきび動くしな。
純      まあ、確かに、486の33MHzならね。うちのPS/55note
        では遅くて実用にならないんだけど。しくしく
山村    よし、DOS/Vの批判をする気はないが、IBMの批判はやってやろ
        う。P*/5*noteは遅いぞ。あんなもんで、Windowsが使えるか!
純      ひえー、駄目ですよ、先輩。そんな神をも恐れぬ言葉を言っては
山村    ん? そういうものか?
純      そういうものです!
山村    しかしなあ。P*/5*noteでWORDを使うぐらいなら、まだ
        98のRA21でWORD使った方が、ずっとマシだけどな。
純      そりゃ、      CPU性能が違うんだから、あたりまえですよ。
        386DX20MHzと386SX16MHzの差です!
山村    だけどさ、IBM互換機は98を超えたと思うけど、I*M純正のマシ
        ンはいまだに98を超えてないんじゃないかと思うんだけど
純      うわー、だめだめ、そんなこと言っちゃだめ!
山村    いいじゃないか。I*Mも頑張れと言っているだけなんだから。しかし、
        まあ、話題を変えるか?
純      そうそう。で他にはどんなソフトを使っているんですか?
山村    DESIGNERも凄くいいぞ。  僕は感動したんだ。それまでは、
        Macでイラストレーターというソフトが使いたいと思っていたんだが、
        その気持ちがふっとぶぐらい良いソフトだぞ
純      へえ
山村    そうか。おまえMacのことは何も知らないもんなあ。じゃあ、こうい
        う話はどうだ? 付属のクリップアート集にな、パソコンだけで50種
        類以上の絵が準備されているというのは
純      なんですか、それは?
山村    特定の機種毎に、いろんなパソコンのリアルな絵があるんだ。これは楽
        しいぞ。キャノンのAXiとか、FM−R70とか、そのものズバリだ
        からなあ
純      それは凄いですね。他にはどんなソフトを?
山村    そうそう。これはQちゃんじゃなくて、98で走らせた話なんだけど
純      なんですか?
山村    W*nT*rmのスクリプト言語は、想像を絶するほど遅い
純      どういうことですか?
山村    つまり、パソコン通信の普通の自動運転に耐えられないぐらい遅いとい
        うことだ
純      それって、山村先輩に取っての普通と、世間の普通の意味が違うだけじ
        ゃないんですか? 高速モデムなんて使って、追い付かないといったっ
        て
山村    今使っているのは、2400bpsのMNPクラス5のモデムで、モデ
        ム本体間は9600でつないでいるんだ。2400が高速モデムだと思
        うか?
純      確かに、今では普通のスピードですね
山村    おかげで、通信もWindows上でやろうと思っていたのに、あてが外れ
        てしまったよ
純      普通に手動で通信する分には、W*nT*rmでも十分なんですけどね
山村    そうそう
純      ともかく、そういう危ない話はよしましょうよ。もっと楽しい話題はな
        いんですか?
山村    そうだなあ、危ない話と言えば。えーと
純      あーっ、わざと危ない話を探しているでしょう
山村    こんなのはどうだ?
純      わー、お願いだからやめてください!
山村    まだ何も言ってない
純      だから、だめですってば!
山村    VisualBasicのコントロールを自作できるCDKは、箱じゃなくて、厚
        紙の封筒に入っているので、買いに行くときには気を付けましょう。僕
        は見落としてしまったことがあるんだ
純      わー、いっちゃった
山村    僕が何か危ないことでも言ったか?
純      え? そういえば、ぜんぜん危なくないですね
山村    CDKは面白いぞ。日本語処理機能を持ったコントロールを作っていけ
        ば、マイクロソフトが日本語版のVisualBasicを発売しなくても、かな
        り使えるかもしれないな
純      それは面白い発想ですね。これもDOS/Vのおかげで、アメリカのソ
        フトがそのまま日本で使えるからできることですね
山村    VisualBasicは、98でも問題なく走っているけどなあ
純      あわわ、突っ込まないでくださいよー
撫子    純!!!!!!!!!!
純      わー、びっくりした。撫子じゃないか
撫子    撫子じゃないか、じゃないわよ。人をほっといていっちゃうなんて、ひ
        どいじゃないの
純      だって、遅れてくるんだもの
撫子    3時間よ。たったの3時間じゃない。それも待てないなんて、デリカシ
        ーの無い人ね
山村    おい、純、男の威厳を忘れるなよ
純      そうそう。そうだった。3時間も女のために待てるかっていうんだ
撫子    へー、そういう態度を取る訳
純      え? あの、その、ごめんなさーい
山村    純、男の威厳はどこにいったんだあ?
純      (ぺこぺこぺこぺこ)
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第8話 1992年7月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
名無船長(なむ ふねなが)・・・・・男性。55歳。撫子の父親。世捨て人の
ような暮らしをしているが、パソコン業界とは深い関りがあるらしい。ちなみに、
名無が性であり、撫子のフルネームは、名無撫子である。

純      始めまして。
名無    よく来てくれた。私が撫子の父だ。
撫子    さあ、あがってちょうだい
純      では、おじゃまします
名無    ときに、純君。撫子に変な気を起こしてはいないだろうね
純      変な気って?
撫子    あー、パパ。違うのよ。ちょっとね、パパの持っている古いパソコンを
        見たいって言うだけなんだから。関係ないの。ぜーんぜん、関係はない
        んだからね
純      そうです。そんな不純なことは何も考えていません。
撫子    そうそう。パパったら、考えすぎなのよ
純      そうです! パソコンの知識をひけらかして、撫子のお父様に良い印象
        を持ってもらおうとか、そういうやましい考えはありません!!
撫子    ちょっと待ってよ。そんな考えがあったの?
純      違うよー。
撫子    待ちなさい、純!
純      うわー、助けてくれ
名無    こほん。純君といったね。
純      は、はい
名無    パソコンに興味があるそうだが
純      はい! 仕事にも使ってますし、興味があります
撫子    やーい、オタクぅ
純      あー、わー、違います。僕、オタクなんかじゃありません。ちゃんと、
        撫子を幸せにしてみせます
名無    幸せ? 何の話だね?
純      あ、違います。なんでもありません!
撫子    そうそう、違うのよ、パパ。気のせい、幻聴よ、きっと
名無    まあいい。ともかくついてきたまえ。地下室に案内しよう
純      はい!

名無    ここが私の電算室だ。
純      でんさんしつって?
名無    なんだ、そんなことも知らないのか。コンピューターを設置している部
        屋のことだよ
純      なんていうアナクロなネーミング……。
撫子    あーら、うちのパパに何を期待していたの?
純      これ、なんですか? やっぱり昔の骨董品のコンピューターなんですか?
名無    これは、オルテアだ。まあ、マイクロプロセッサーを使った最初の商品
        としての汎用マシンと言ってよいだろうな。
純      凄い。そんなものを飾っているなんて、キャリアが長いんですね
名無    何を言っているんだね。飾ってある訳ではない。立派に現役だ。
純      でも、これ、昔のパソコンなんでしょ?
名無    パソコンではない。マイコンだ。
純      マイコン、ですか。でも、CPUの性能なんかが低いから、使い物にな
        らないんじゃないですか?
名無    最初は、  確かにインテルの8080が入っていたがな。Z−80、
        8086、68000と載せかえて、今はR4000が入っているから、
        並みのパソコン以上の性能は出ているはずだ
純      がーん
名無    もっとも、最初から残っているのは、ケースと電源ぐらいだがね。新し
        いCPUでマシンを動かすときには、パネルスイッチが使えるのがいい。
純      これって、IBM−PCじゃないですよね
名無    そんな、最近ぽっと出たような実績の無いマシンに興味はない。やはり、
        基本はS−100バスマシンだ。
純      えすひゃくって、なんですか?
名無    バスの名前だよ。バスが共通化されているから、CPUも周辺機器も、
        新しいものが出れば交換できるから、妙なパソコンを買い込むよりも便
        利だぞ。IBM−PCなんか、買い込まないほうがいい
純      うわー、何か違う。ここはどこ?わたしはだあれ?
名無    撫子、本当にこれでパソコンマニアなのか?
撫子    自称って頭に付くと思うわ
純      で、でも、最新のソフトなんか使えないでしょ? ほら、便利なソフト。
        Windowsとか、Vzとか、WX2+とか、そういうのが使えないでしょ?
名無    別に、UNIX上でX11R5と、NemacsとWnnが使えるので、
        不自由していないが
純      がーん、言っていることが全然分からない……
名無    Xも知らないのか。もぐりか?
純      まあまあ、話を変えましょうよ。こっちの棚には、98がたくさん並ん
        でいますね。(しめしめ、今度はこっちのペースで話ができそうだぞ)。
        それも初代98ばっかり。どうして、こんなに98ばかり積んであるん
        ですか?
名無    ああ、これか
純      こんな古い98じゃあ、さぞ不自由しているでしょう。遅いし、最近の
        ソフトでは走らないものが多いし
名無    そうなのか?
純      そうなのかって。じゃあ、これは使ってないのですか? 飾ってあるだ
        けどか。
名無    いや、今も全部稼動中だが。
純      だったら、IBM−PC互換機に置き換えたほうが、絶対にお徳です!
名無    ここには、1台1万円で買い込んできた98が16台ある。しめて16
        万円だ。メモリーは128KBのままだが、全部8087を積んでいる。
        後ろの320KBのディスクインターフェースは、実際にはただのパラ
        レルポートなので、これを使って、相互に接続してある。接続先は、あ
        っちのSun−3だ。
純      いったい、何に使っているんですか? ディスプレイもディスクも付い
        てないし、メモリー128KBじゃ、MS−DOSだって、ろくに動か
        ないでしょう?
名無    レイトレーシングだよ、純君。CGの並列計算マシンとして動いている
        のだ。全て、ソフトはアセンブラで書き下ろしたものを使っているから、
        OSなど不要
純      がーん、これ全部並列で動いていんですか!
名無    本当は、パワー不足なので、256台まで増設したいのだが、もう初代
        98も中古市場に無いようなのでな。ここらで、Sunと98のシステ
        ムは破棄して、もう一度システムを組み直そうかと思っているところだ
純      それなら、やっぱり、IBM互換機に置き換えましょうよ
名無    いや、念願のトランスピューターアレイを導入してみようかと思ってい
        るのだ。まあ、しょせん、私もおちゃめなミーハーだってことだな
純      これのどこが、おちゃめなミーハーですか!名無    うーむ
純      もっと、世界に目を向けないといけません。自分の世界に閉じこもって
        は駄目なんです。コンピューターにとって、オープンな姿勢こそが絶対
        に必要なんです!
名無    うちのマシンは、    全て、LANでつながっていて、更に、
        Internetにも接続しているから、ftpでアメリカのどこから
        でもソフトを取ってこれるし、どこの誰にでもメイルは送れる。海外に
        も知人友人は多いのだがな。アメリカのコンピューターに関する情報は
        君よりも詳しいと思うがね
純      がーん、インターネットって何ですか?
名無    撫子、これが君の婿候補だというのかね。情けない
撫子    違います!
名無    まあいい。それでは、面白いことを教えてあげよう。君にもよく分かる
        レベルの低い情報だ。今アメリカで流行しているのは、ジェネシスとい
        うゲームマシンなのだ。これが、任天堂のゲームマシン以上に売れてい
        てね。流行っているのは、ソニックという、それはスピーディーなアク
        ションゲームだそうだ。絶対に日本人には真似が出来ないだろうと、ア
        メリカの友人が電子メイルで自慢していたがね
純      あのお
名無    なんだね?
純      ジェネシスって、日本のSEGAが作ったメガドライブのアメリカバー
        ジョンの名前だと思うんですけど。ソニックも日本製だし。
名無    (ぎくっ)
純      どうしたんですか?
名無    う、うむ。撫子、君の婿候補も、けっこうやるじゃないか。
撫子    違います。婿候補なんかじゃありません!
純      分かってくれましたか、お父さん!
撫子    お、お父さんですって!?
名無    うむ。見所のある青年だ。また遊びに来たまえ
純      はい!
名無    君が、撫子の婿にふさわしいかどうか、たっぷりと相手をしてあげよう
撫子    違うっていうのに
純      望むところです!
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第9話 1992年8月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。

純      あ、僕はビールね
撫子    私はワインね
純      いやあ、ここんとこ御無沙汰だったね
撫子    そうね。会うのは3週間ぶりかしら
純      忙しかったみたいだね。連絡しても上の空だし
撫子    そうだったかしら
純      ところで、やっぱり時代はマルチメディアだよね!
撫子    やめてよ、もう。またパソコンの話ぃ?
純      そう言わないでくれよ。マルチメディアは情報家電なんだ。マニアのも
        のでもOAのものでもない
撫子    そんなこと言っても、もう10年も前からマルチメディアって言葉を聞
        いているけど、結局いつまでたっても、何も出てこないじゃない。そん
        なもの興味無いわ
純      確かに昔から、よく言葉だけは出ていたけれど
撫子    でしょう? はっきりいって、あれはお伽話なんじゃないの? あんな
        ものに本気になるなんて、馬鹿みたい
純      ふっふっふ。実は、そうじゃないんだな
撫子    な、何よ。無気味に笑ったりして
純      おっとの飲みの物がきたぞ。とりあえず、CD−ROMに乾杯
撫子    乾杯
純      ぷはあ、ビールがうまい!
撫子    それで? マルチメディアがどうしたって?
純      その1。すでに富士通とNECからは、Windowsのマルチメディアエ
        クステンションが発売されている!
撫子    ふーん
純      あ、あのね。これは凄いことなんだよ。単なる掛け声ではなくて、実際
        に製品になって売られているってことなんだから
撫子    それだけ? だったら、誰も買わなければすたれてしまうわ
純      じゃあ、その2。ついに、フィリップスとSONYからCD−Iプレイ
        ヤーが発売になった!
撫子    あ、そう
純      あ、そうってねえ。長い間出る出るといわれながら、ずっと出てこなか
        ったCD−Iが、ついに出たんだよ。お伽話じゃなかったんだよ。それ
        が証明されたんだ
撫子    そんなプレイヤーだけ出たって、いったいどんなソフトがあるっていう
        のよ。98でもファミコンでも出来ないような、物凄いソフトでも無い
        限り、買う気も起きないわ
純      そ、それは別の問題だよ。とりあえず、今出てくるソフトは、あくまで
        顔見せ、サンプルみたいなものだからね
撫子    結局、ソフト無ければただの箱でしょ? 興味無いわ
純      くくく。それなら、これを見るんだ
撫子    何これ?
純      マルチメディアで提携している企業の相関図だ
撫子    よく分からないわ
純      見てみろ。IBM、アップル、SONY、シャープ、東芝、その他もろ
        もろの会社が絡み合っているだろ?
撫子    それは分かるけど
純      みんな、マルチメディアが儲かるって確信しているから、積極的に動き
        廻っているんだよ。いいかい、どこもみんな本気なんだ。だから、きっ
        と、マルチメディアは立ち上がるんだ!
撫子    それで?
純      それでってことはないだろう? 他に、スーパーファミコンのCD−
        ROMシステムだって、出るっていうし、時代は全てマルチメディアを
        向いているんだ
撫子    ふーん
純      分かってないなあ。例えば、Windowsがマルチメディア対応になる
        と、サンプリングした音で、起動したときや、ビープ音を鳴らすことが
        できるんだ。ビープ音を、もっと耳に優しい音に置き換えたら、エラー
        が起こっても、ずっと気持ちが楽になるし、時計アプリケーションで時
        報を、大時計の「ぼーん」て音で鳴らすと、すごく味わいがあるんだか
        ら
撫子    あ、そう。
純      撫子、ちょっとおかしいぞ。何があったんだ?
撫子    なんでもないわよ。それより、純こそ、どうなのよ。あんたみないな貧
        乏プログラマーがマルチメディアなんかのマシンを買える訳が無いじゃ
        ない
純      それは言い過ぎだよ
撫子    だって、いまだに、あなた486/33のIBM−PC互換機も買えな
        いんでしょう?
純      ぐさっっっ。だって、だって、ソフト業界は不況なんだからしょうがな
        いよ
撫子    まったく、私に貢ぐぐらいは稼いで欲しいわ
純      分かったよ。きっとお金を稼いで、486/33のマシンを買って、そ
        れを撫子に貢ぐよ
撫子    あー、まったく分かってないんだから。だいたい、買えもしないマルチ
        メディアの話を始めたのは、いったいどうしてなのよ。はっきり言いな
        さい
純      うっ。そ、それは
撫子    さあさあ、はっきりさせなさい
純      実は
撫子    実は?
純      天外魔境2にはまってしまったんだ
撫子    てんがいまきょうですって!?!?
純      あ、天外魔境2っていうのは、PC−エンジンっていうゲームマシンの、
        スーパーCDロムロムっていうCD−ROMシステムで動く、  CD−
        ROMのRPGゲームなんだけど。それが凄いんだよ。音楽はナウシカ
        なんかで有名な久石譲だしさ、ベテランの声優が声を入れているし、ア
        ニメーションは多いし、イベントは多いし、ついCD−ROMでどのく
        らいのことが実現されているのかな?って思って始めたら、はまってし
        まってさ、あははは。おかしいだろう?
撫子    知っているわ。パパもはまっているもの
純      お、お父様も! やはりあの方は凄い
撫子    それより。まさか、この3週間、一度もデートに誘ってくれなかったの
        は、天外魔境2をやっていたからじゃないでしょうね
純      い、いやあ。実はそうなんだ。はははは。結局、全部で77時間も掛け
        てしまったんだ
撫子    一つだけ引っ掛かるんだけど
純      な、なんだい?
撫子    本当に、CD−ROMへの興味から、始めたのかしら?
純      と、当然じゃないか
撫子    この間は、CD−ROMのことなんかは、何も喋ってなかったのに。お
        かしいわ
純      どういう意味なんだい?
撫子    ズバリ、鞍手さんから、教えられて、はまったんじゃないの?
純      ぐさぐさ! どうしてそれを
撫子    やっぱりね
純      鞍手さんからさ、秘密のいいこと教えてあげるわ、とか言われて、ほい
        ほいとついていったら、そこにPC−エンジンがあってさ。まあ鞍手さ
        んには逆らわない方がいいと思って、遊んでいるうちにそのまま、ずぶ
        ずぶと
撫子    はまったのね
純      うん。でも、どうして撫子は、それがわかったんだい?
撫子    ぎくっ。そ、それは
純      さあさあ
撫子    ちょっと鞍手さんのところにいったら、鞍手さんがはまっていたから、
        それで
純      本当にそれだけかな?
撫子    そうよ。鞍手さんたら、カブキと菊五郎の大ファンで、男は競ってこそ
        華、なんてね
純      ズバリ、撫子もはまっているんだろう
撫子    がーん、どうして分かったの!?
純      今の鞍手の姐さんの家にいって、天外魔境の染まらないで帰るのは不可
        能じゃないか
撫子    えーん、そうなのよ。いきなり部屋に閉じこめられて、中にはTVとゲ
        ームしかなくて
純      やっぱり
撫子    信じてよ、純。けして自分からではないの。無理矢理やらされたのよ!
純      じゃあ、これでどうかな?
撫子    きゃ!それはカブキ様のお写真!
純      PC−エンジン雑誌から切り抜いて持ってきたんだけど。欲しいか?
撫子    欲しい! きゃん、カブキ様ぁ
純      駄目だこりゃ
撫子    ちょっと、純、カブキ様のお写真を渡しなさい
純      うわ、ちょっと撫子。ビールがこぼれるよ
撫子    やった
純      取られてしまった、とほほ。ここまで人を虜にするとは、CD−ROM
        とは恐ろしいメディアだ
撫子    ちょっと待って
純      な、なんだよ。もうカブキの写真はないんだから
撫子    CD−ROMなんて、どうでもいいの。ソフトあってのメディアでしょ
        う? CD−ROMがどーした、とか、マルチメディアが、こーした、
        と叫んでいるうちは、駄目なのよ。やっぱり、カブキ様みたいに、魅力
        的なキャラクターを出すようにしないと、ね。結局、魅力的なソフト無
        ければタダの箱なのよ
純      だけどさ、CD−ROMじゃないと、これだけのデータは収まり切らな
        いよ
撫子    そうじゃなくて。今のマルチメディアとかCD−ROMの話に、いった
        いカブキ様に匹敵するセクシーな要素があるっていうのよ。別にCD−
        ROMから辞典が引けたって、ちっともセクシーじゃないわ
純      じゃあ、撫子は、セクシーなソフトが出ないと、売れないと思っている
        んだね?
撫子    え? セクシー? わ、わたし、何を口走っていたのかしら
純      だからさ、マルチメディアとセクシーさについて、今夜はとっくりと話
        し合おうじゃないか。なんなら、ホテルの部屋でも取るかい?
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第10話 1992年9月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
名無船長(なむ ふねなが)・・・・・男性。55歳。撫子の父親。世捨て人の
ような暮らしをしているが、パソコン業界とは深い関りがあるらしい。
賀後入(かごいり)・・・・男性。53歳。名無のライバルらしい謎の人物。

純      こ、こんにちわ
撫子   あら、いらっしゃい
名無    おお、純君ではないか。良く来たな
純      お邪魔します。お父様にはいろいろと聞きたいことがありまして
名無    うむ。なんなりと聞くがよい
撫子    とりあえず、あがって頂戴
純      はい。では

撫子    純、座って。はい、お茶をどうぞ
純      ありがとう
名無    私に聞きたいことってなんだね?
純      一部で、名無船長は実在するか?ということが話題になっているらしい
        んです
名無    馬鹿な。私はこうしてここに存在しているぞ
純      そう言われてしまうと、ミもフタもありませんが。じゃあ、こういう質
        問にしますね。名無さんのライフスタイルのお手本になった人がいらっ
        しゃるのでしょうか
名無    なぜ、そんなことを聞くのかね?
純      なぜって、いかにも実在したら面白そうな、オタク心をくすぐるような
        趣味をお持ちなので
名無    まあ、面白い趣味なのは事実だが。それより、君こそ、事務機みたいな
        パソコンで遊んでいて、つまらなくないのかね?
純      だからあ、そうじゃなくて。質問しているのは僕の方なんですよ
名無    失敬。しかし、私もとても興味があるのだよ。UNIXも走っていない
        ようなマシンを使っていて、何が面白いのか
純      少なくとも、UNIXならSCOもBSDも動いてます(ほっ。山村さ
        んに教えてもらってきてよかった)
名無    しかし、今どき、メモリーがたったの640KBしかないのだろう?
        しかも仮想記憶もなくて。もうPDP−11の時代じゃないんだから
純      ぴ、PDP?
名無    なんだ、あんな有名なミニコンも知らないのか
純      ごめんなさい。知りません!
名無    まあいい。今どき、そんな640Kぽっきりでは、そのへんで出まわっ
        ている普通のソフトが動かないだろう
純      普通のソフトって、一太郎だって1−2−3だって、ちゃんと動いてま
        すよ
名無    あんなのはパソコン用のおもちゃじゃないかね?
純      おもちゃってことはないでしょう。みんな使っているんだから。全国一
        千万の一太郎ユーザーが怒りますよ
撫子    じゃあ、一太郎、純は使っているの?
純      ぐさあ。突っ込まないでよぉ、撫子。
名無    まあいい。事務屋なら、一太郎でも十分仕事になる。それを否定する気
        はない
純      ほっ。それで、お父様の言う普通のソフトって、なんですか?
名無    VAXとか、Sunとか、最近はNEWSやLunaという連中も居る
        が、そういう普通のマシンで作ったものだよ
純      そういうのは普通じゃありません! バックスって、どっかの大型コン
        ピューターでしたよね
名無    あれは、  ただのスーパーミニコンだ。大型というのは、I*Mの
        3090ぐらいの奴だな
純      がーん、3090ってなんですか?
名無    純君、もっと勉強したまえ!
純      は、はい! でも、WindowsやOS/2なら、たくさんメモリーが使
        えますから、きっと大丈夫ですよ
名無    しかし、変な仕様のOSだからなあ
純      変じゃないです!   そうそう、思い出した。OS/2 2.0は
        POSIX対応なんですよ。(なんだか知らないけど、困ったら言えと
        山村さんに言われた台詞だ!)
名無    ふむ。では、UNIXのソフトが動くというわけだね?
純      はい! そうです。
名無    しかし、だからといって、そのOS/2 2.0とやらをあえて買う者
        が居るかどうか
純      なぜですか? UNIXのソフトが動いたら、凄く嬉しいじゃないです
        か
名無    UNIXを使えば普通に使えるものを、わざわざ実績もない変なOSを
        入れる奴が居るのか
純      あわわ。違いますって。OS/2 2.0を使うと、MS−DOSと
        WindowsとOS/2のアプリケーションも走るんです!  みんな共存で
        きるんです。素晴らしいことじゃないですか!
名無    そんな変なパソコン用のOSのアプリなんか、使う奴がいるのか
純      ああ、違う。違います! パソコン用のOSの話なんですよ。パソコン
        で走るんです!
名無    じゃあ、ワークステーションにはポーティングできないのかね? そん
        なものが使い物になる訳がない
純      ああ! 何か違う! ここはどこ? 私はだれ?
撫子    とうとう頭が飛んだわ
名無    うむ。最初は何か質問があるようなことを言っていたが
賀後入  ふっふっふ。あいかわらず、とんちんかんなことをやって、若い者をい
        じめているようだね
名無    貴様は賀後入! どこから入った!?
撫子    あら、さっきいらっしゃたので、御案内したんだけど。気がつかなかっ
        た?
賀後入  この青年の言っていることは正しいのだ。世界のOSは、I*MのOS
        /2が制覇するのだ。SAA万歳 CUAは正義。メニューのアクセラ
        レーター文字は後ろには括弧を付けるのだ
名無    おまえ、まだそんな馬鹿なことを言っているのか。
賀後入  どうだ、AIXを使う気があるなら、安く売ってやるぞ
名無    何を馬鹿なことを
賀後入  コンピューターとは、スケールが勝負を決めるのだ。市場の規模、量産
        効果。それが全てなのだ。I*M−PCこそが、世界を支配するにふさ
        わしい、選ばれたコンピューターなのだ
名無    その割には、互換機ばかり売れているようじゃないか
賀後入  ふふふ。確かにUS本国では多少の失敗はしたがな。ブランドイメージ
        弱い日本人が相手なら、どんな高いマシンを売りつけても買うだろう。
        何しろ、絶対の信用、絶対のブランド、I*Mだからな。
名無    くそ。平和主義のUNIX文化では、こいつには対抗できない……
純      待て。どこの誰かは知らないが、僕が相手だ!
賀後入  おお、見所のある青年。君にその気があるのなら、これから私の部下に
        してあげよう
純      嫌だ!
賀後入  な、なんだと?
純      PS/55noteは遅いぞ。あんな時代遅れの性能のマシンを売りつ
        けやがって。いまだに386SX16MHzだと? 98ノートだって、
        もう386SL20MHzで売っている時代に。おまえんとこは、N*
        Cにも劣るぞ! ああ、こんなことなら、互換機を買っておくんだった!
賀後入 な、なんだと?
純      それに、いいかげん、普及価格の486/33マシンを出せ。技術の出
        し惜しみをするんじゃない。僕は安い486/33のマシンしか買う気
        はないぞ
賀後入  な、何を言うのだ。ただの個人ユーザーの分際で。せっかく、至高のI
        *Mマシンを、お情けでおまえのような個人にも売ってやっているのに
純      ふん。売ってもらわなくても結構。どうせ僕は互換機を買うつもりだっ
        たんだい
賀後入  しかし、OSはどうするのだ。DOS/VはIBMブランドのものを買
        わざるをえまい
純      甘いな。今はマイクロソフトブランドのMS−DOS/Vがあるんだ!
        そのうちWindowsだって、マイクロソフトから買えるようになるさ
賀後入  おのれ。それでは、OS/2を使えないようにしてやる
純      そんな台詞は、日本語版OS/2 2.0に、AT用のモジュールを入
        れて出荷してから言ってくれっていうんだ
賀後入  く、くそう。覚えていろ
撫子    あら、おかえりですか? 賀後入さん
名無    ふう。やっと去ったか
純      何者なんですか、あれは
名無    自称I*Mの使者。実体はただのI*Mかぶれなのだ。あんなのがうろ
        ついていたら、I*Mも迷惑だと思うのだが……
純      じゃあ、I*Mとは無関係の人間なんですね?
名無    ああ、そうだ。単にI*Mを誤解しているだけなのだ
純      やっぱりね。どうも言っていることが変だと思いました
名無    しかし、感心したぞ、純君。彼をあそこまで完璧に追い出せるとは、見
        所がある
純      はい! お父様と呼ばせてください!
名無    なあ、純君。やっぱりOSはUNIXしかないな
純      いえ。やっぱり本命は、OS/2 2.0です!
名無    (こけっ)
純      でも悩むところなんだよなあ。NTにも捨てがたい魅力があるし。成熟
        したWindows3.1でしばらく楽しむっていう手もあるし
名無    撫子、助けてくれ
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第11話 1992年10月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
山村(やまむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純のオタク方面の指導者。
半村(はんむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純の人生方面の指導者。
鞍手洲子(くらてしゅうこ)・・・女性。29歳。山村と半村と付き合っている
が、どちらとも結婚する気はない。

撫子    あー、もう本当にいらいらするわ!
純      なにも、    そんなに怒らなくったっていいじゃないか。ちょっと
        Windows3.1の話をしていただけじゃないか
撫子    どこが、ちょっと、よ。延々と3時間も
純      違うよ。Windows3.1の話は、ほんの1時間ぐらい、残りの2時間は、
        OS/2とNTの話じゃないか。ちゃんと区別してくれなくちゃ困るよ
撫子    あーっ、ほんっとうに分かってないのね!
純      だからさあ、NTっていうのは、同じWindowsでも……。
撫子    (ぷっつん)
鞍手    あ、切れた
半村    純、おまえって奴は
山村    あらら
純      な、撫子。どうしたんだい? 僕が分かるかい?
撫子    ……
鞍手    完全に頭がとんじまったね
純      な、撫子ぉ。僕が悪かったよぉ。もう、オタクから足を洗うからさあ
撫子    うるさい。わらわは、撫子などという名前ではない
純      なでこ?
撫子    わらわは、日本のパソコンを見守る波素金菩薩であるぞ
純      パソコン菩薩?
撫子    ええい、頭が高い!
鞍手    ふーん、この偉そうな態度が撫子の本性かねえ?
山村    聞いたことがある。波素金菩薩といえば、日本に最初の8080を輸入
        させ、NECに初代PC−9801を発売させ、一太郎の開発の影で暗
        躍したという謎の神様だ。NECにVシリーズのCPUを諦めさせて、
        286搭載のVXを発売させたのも、    某SHARPをそそのかして
        X68000を発売させたのも、みんな、この波素金菩薩だと囁かれて
        いるんだ
半村    おいおい
鞍手    山村のジョークのセンスはこのぐらいだよ
純      波素金菩薩様。ほ、ほんとうですか? 知らなかったなあ
半村    本気で信じるなよな
鞍手    純のレベルもこれぐらいってことさ
純      そ、その波素金菩薩様が、いったいどうして、撫子の身体に乗り移った
        のでしょうか!?
撫子    御神託である
純      御神託?
山村    菩薩様、いったい何を御神託するのでしょう?
撫子    日本のパソコン界の今後である
純      (ごくり)こ、今後って、なにが起こるのでしょうか?
撫子    おお、見える。見えるぞよ。1992年の秋には、NECが新製品を発
        表するが、個人向け低価格の486/33+ハイレゾマシンは出ないぞ
        よ
純      そうか、残念だなあ
山村    ばか、NECがそんなに美味しいマシンを出す訳がないだろう
撫子    IBM互換機の世界も激変しておるぞよ。まさかと思うようなハードソ
        フトの会社までが互換機の開発と販売に乗り出して来るぞよ。もはや、
        サードパーティーのハードディスクを買うような感覚で、互換機が売れ
        ていくぞよ
純      おお、それは良いことだ
山村    にわかには信じられないな。98ソフトの蓄積を考えれば、業務ユーザ
        ーがぽんぽんと互換機を買うかな
撫子    見える、見えるぞよ。ハイレゾ、GUI、ハイパワーの環境に目覚めた
        ユーザーは、もはや昔には帰れないのである。一度味をしめたユーザー
        は、互換機を買うしかないのである。そして、一度でもその互換機に触
        れた者達も、もはや古い環境には満足できなくなるのである
山村    なるほど。しかし、ソフトは?
撫子    WORD、Excel、PageMakerだけでも強烈なパワーを叩
        き出せるのであるぞよ。それに一度浸ってしまえば、もはや後戻りはで
        きないのであるぞよ
純      そうだ、そうだ!
山村    しかし、そんな時代になれば、NECだって黙ってはいまい
撫子    NECは黙るであろう。NECに技術力があったのは過去の話。ユーザ
        ーのニーズに対応する力は、もはや残されてはおらぬ。NECなら、何
        かやってくれるという甘い期待は、全て裏切られるであろう
山村    そうなったら、もう98は滅びるしか……、まさか。
撫子    98は滅びるであろう。98が相手にされるのは、1993年の夏まで
        であろう。1993年の秋になったら、もはや、98をすすめる雑誌も、
        販売店も、誰も存在しないであろう。
純      わーい、やったー。嬉しいな。はやくその日が来ないかな
山村    信じられない。これでも、10年の蓄積のあるパソコン文化なんだぞ
撫子    分かっておらぬのは、おまえの方であるぞよ
山村    分かってないって?
撫子    これは、アメリカ台湾連合への、日本のパソコン文化の敗北なのである。
        ハードもソフトも、つまらない内容のものを、高額で売りまくり、ぼろ
        儲けしていたツケがまわってきたのである。これ以後、日本パソコン界
        は、アメリカ台湾連合の植民地となるであろう。アメリカ人と中国人の
        顔色をうかがわなければ、商売も出来ない時代になるであろう
山村    それは許せん。アメリカ人ごとに屈伏などできないぞ
撫子    愚か者が。アランケイのダイナブックの構想を引き合いに出すまでもな
        く、理想的な個人用のコンピューターは、現在の98やIBM互換機と
        は全くの別物である。98もIBM互換機も、どちらも、実現可能なテ
        クノロジーを組み合わせて作られた半端物にすぎぬのであるぞよ。従っ
        て、テクノロジーが進めば、自然に淘汰されていくべき性格のものであ
        るぞよ
山村    それはそうだが
撫子    ところが、日本のパソコン界の者達は、あれが唯一無二のパソコンであ
        ると勘違いしたのであるぞよ
山村    そりゃあ、そいつらが間抜けなだけだ
撫子    その間抜けが多かったということであろう。少なくとも、IBM互換機
        の周辺の者達は、すこしでも、パソコンにパワーを与えるべく努力して
        きた。しかし、NECは、努力を怠り、企業ユーザーが買ってくれるの
        を良いことに、旧弊なマシンを売りつづけたのであるぞよ
山村    うーむ
撫子    そして、いま、海を渡ってアメリカからやってきたWindowsのア
        プリケーションは、強烈なパワーを持っているのであるぞよ。日本のユ
        ーザーも、このパワーに触れれば、もはや旧弊な日本製ソフトなど使い
        たいとは思わなくなるであろうぞよ。ところが、もはや98のCPUパ
        ワーでは、それらのアプリを気持ち良くば使えないのであるぞよ
山村    しかし、みんな、そう簡単に考えを変えるかな。パソコンユーザーは意
        外と頑固だぞ
撫子    見える。見えるぞよ。パソコンユーザーの暴動である。みんなが持って
        いるパソコンは、おお、98であるぞ。98ユーザーがNECに苦情を
        言うべく殺到しているぞよ。これまで押さえられてきた怒りが爆発して
        いるのであるぞよ
純      そりゃそうだよ。みんな怒っているもの
撫子    おお、暴動の隅の方で、露天を開いて互換機を売っている者がおるぞ。
        しかも、売り物のマシンには、まともなブランド品もあるぞよ。その場
        でベンチマークを走らせて、性能を競っておるぞよ。おお、どんどん飛
        ぶように売れていくのが見えるぞよ。もう、誰も98より何倍速いなど
        と宣伝はしておらぬ。もはや、98より速くて当たり前。互換機同士で
        スピードを競っておる
山村    もはや、98は評価の基準にもならないのか
純      そりゃあ、そうですよ
撫子    おお、1993年の秋のTHE WINDOWS誌が見えるぞよ。特集は「古き
        良きPC−9801」となっておるぞよ。「僕らのパソコンライフを支
        えてくれた98よありがとう。安らかに眠ってくれ。君のことはけして
        忘れはしない」
山村    そこまで行くか? たった1年で
純      どうやら、いってしまうみたいですね。ところで、CFCの西川先生あ
        たりは、1995年に決戦だと言ってますが、どうでしょうか
撫子    98対IBM互換機の決戦は起こらないであろう
純      起こらないって? どういうことです?
撫子    98は自滅していくであろう。それと表裏一体となって、IBM互換機
        が成長していくであろう。両者はけして、争わない。98はただ消えゆ
        くのみであるぞよ
山村    では、1993年中に、98は消えてしまうと?
撫子    依然としてかなりの台数は売れているであろう。しかし、積極的にパソ
        コンを使おうとする者達は、けして手を出さないであろう。もはや、日
        本を代表するパソコンにはなるまい
純      わーいわーい。嬉しいな
山村    僕は、複雑な心境だ
撫子    はっ。あたし、なにをしていたのかしら?
純      素晴らしい御神託をありがとう、撫子。よーし、もっと頑張るぞ!
撫子    私が気を失っている間に、何かあったのね!?
鞍手    そーゆーことだよ
撫子    あー、わたしってなんて不幸なのかしら
                   おわり
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

窓際パソコン物語 第12話 1992年11月号掲載

 登場人物の紹介
純(じゅん)・・・・・男性。28歳。フリー・プログラマーでパソコン・オタ
ク
撫子(なでこ)・・・・女性。26歳。とある零細企業の事務一切を担当してい
る。パソコンは仕事の道具と割り切っている。
真理(まり)・・・・・女性。22歳。撫子の後輩でプロのグラフィクス・デザ
イナー
山村(やまむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純のオタク方面の指導者。
半村(はんむら)・・・男性。31歳。純の先輩。純の人生方面の指導者。
鞍手洲子(くらてしゅうこ)・・・女性。29歳。山村と半村と付き合っている
が、どちらとも結婚する気はない。
名無船長(なむ ふねなが)・・・・・男性。55歳。撫子の父親。世捨て人の
ような暮らしをしているが、パソコン業界とは深い関りがあるらしい。
賀後入(かごいり)・・・・男性。53歳。名無のライバルらしい謎の人物。
autumn(オータム)・・・男性。28歳。作者

autumn  最終回ということで、今日は、お忙しい中、お集まりいただきまして、
        ありがとうございます
半村    あんた、誰?
autumn  誰ってことはないでしょ。このお話の作者なんだから
純      あ、知ってる。某PC−VANの某宮崎駿ネットワーカーFCで、ミー
        ハーやってる人だ
autumn  ぐさぐさっ
撫子    ちょっと、純。なんで、そんなこと知っているのよ。また、私に隠れて、
        オタクな世界に走ったのね
純      ああ、違うよ。けして、9600のモデムが安くなったから、ついふら
        ふらっと買ってしまって、調子に乗って、あちこちアクセスしまくって
        いるとか、そういうことじゃないんだからあ。しかも、スケベなCG目
        当てに、アニメ関係のSIGやフォーラムばかり廻っているなんて、そ
        んなの事実無根だよー。
撫子    ふーん、そうだったの
鞍手    まあまあ、喧嘩なんてしないでさ。今日はどういう集まりなんだい?
        autumnさんとやらが、わたしらに好きなだけ奢ってくれるなんて
autumn  好きなだけ奢るなんて言ってません
鞍手    とりあえず、みんな、好きなものをお頼み
純      とりあえず、ビール!
一同    賛成
撫子    あたしは、ワインがいいのに
autumn  あの、少しは協力してよ。とほほ。1年間連載していて、いろいろあっ
        たけど、みなさんの感想を聞かせてください
純      僕は、とても面白い1年だったと思うなあ。どんどんIBM互換機は普
        及するし。来年はもっと面白くなるだろうなあ
撫子    あたしは、面白くもなんともないわ。オタクと付き合うのなんか、うん
        ざりよ。ねえ、半村さん、私をスキーにでも連れていって
半村    おっと、今は秋だぜ。スキーはまだ早いって。それに、俺は鞍手の姐さ
        んにぞっこんなのさ。ガキにゃあ、興味はないのさ
撫子    ガキですって?
autumn  まあまあ、やっぱり、パソコン関連雑誌だから、パソコン関連のネタを
        話してくださいよ
山村    僕にとっては、けっこう凄い1年だったな。最初は、IBM互換機なん
        て、使い物にならないと思っていたけれど、1年のうちに、98よりも
        使い物になるマシンに成長してしまったからなあ。  仕事の半分以上を
        Windowsでやるなら、98なんてゴミも同然だね
autumn  さすが、山村さん。THE WINDOWSっぽいことを発言してくれて嬉しいで
        すね。でも、あとの人達のことを考えると、とほほ
鞍手    あら、わたしの番かい? この1年ねえ。いまいち刺激が足りなかった
        ねえ。ちょいと、あんた
autumn  はあ? 私ですか
鞍手    あたしのアバンチュールに付き合わないかい?
山村    なんですって?
半村    あ、姐さん!
autumn  け、けっこうです!
真理    はーい。1回しか出番のなかった、Macユーザーの真理でーす。
autumn  はいはい。真理さん、Macユーザーの目から見て、この1年はどうで
        しょうか?
真理    そうね。大企業もMacをたくさん買うようになったし、個人でMac
        を買う人も増えて、今年はMacの年だったかなあ、なんて思ったりし
        て
autumn  あの、これ、Windowsの雑誌なんですけど
真理    あら、うちの社長も、Windowsには注目しているのよ。24ビットの
        画像が問題なく扱えるようになったら、買おうかなって言っているわよ。
        あと一息で、そこまで行きそうなんだって?
autumn  まあ、時間の問題でしょうね。でも、Macユーザーとしてのプライド
        は無いんですか? 意地でもWindowsは使わないとか
真理    仕事が出来れば、なんでもいいわ
autumn  パソコンユーザーの鏡のような方ですね
賀後入  私にもしゃべらせたまえ
autumn  あなたは、自称I*Mの使者、賀後入さんではありませんか。こんな人
        呼んだかな?
賀後入  細かいことをごちゃごちゃと言ってはいけない。98がどうしたって?
        あんな訳の分からないパソコンを買うのは金の無駄だ
autumn  あの、この場の誰も、98をすすめてないんですけど
賀後入  MS−DOSだ?  Windowsだと? あれは、おもちゃに過ぎん。本
        当のOSはOS/2だけなのだ
autumn  ああ、困るなあ。これ、OS/2じゃなくて、Windowsの雑誌なんです
        けど
名無    また、若い者を困らせているようだな
賀後入  そ、その声は、名無! いつのまに!
名無    新宿の西口交番前で待ち合わせて一緒に来たばかりではないか。健忘症
        にかかったか?
賀後入  おのれ! 386SLC攻撃をくらえ!
名無    なんの。486DX2、66MHzバージョンだ!
純      そ、それは、オタクのあこがれ、現在86系CPUでは最高速と言われ
        る、486DX2の66MHzバージョン!
名無    純君。私にもやっと、IBM互換機のよさが分かったぞ。やはり、時代
        はMach386に、386BSDなのだな
純      ま、まーくって何ですか?
名無    フルセットのUNIXがソース付きでこんなに簡単に入手できて、しか
        も、100万もしないパソコンで動いてしまうとは。脱帽したよ、純君!
        IBM互換機は面白いぞ!
純      あの、だから、まーくってなんですか?
名無    私が間違っていた。カタログのスペックが、98に似ているので、つい
        98のようなものだと思ってしまったが
純      あの、だからさあ、お父様ぁ
名無    やはり、コンピューターはバックグラウンドの文化で決まるのだ。どん
        な人間が、どんな形で関与してくるかによって、コンピューターの姿は
        大きく変わる。IBM互換機のように、絶対的に強い盟主のいない文化
        は、競争の中で、どんどん発展していくのだなあ
賀後入  まて。IBM互換機の盟主は、我がI*Mなのだ。全ての規格は、我が
        I*Mが作り出し、みなそれに従っているのだ
純      あの、  スーパーVGAって、別にIBMが作ったわけでもないし、
        ET4000もS3も、ローカルバスも、IBMなんて関係ないんです
        けど
賀後入  それは、間違った製品なのだ。みるがいい、このXGAのパワーを
純      XGAって、いまどき、別に速くないビデオカードなんだけどなあ
賀後入  I*Mの技術は絶対なのだ。スーパーVGAのような、下品で野蛮な技
        術は、I*Mのマシンには不要なのだ
純      でも、ほら。PS/55noteに、VGAモニターをつないで、デバ
        ドラを入れたら、ほら、800×600のスーパーVGAモードになっ
        た。これ、IBM純正のマシンですよね
賀後入  お、おのれ。今日の所は、見逃してやろう。さらばだ。わっはっはっは
autumn  おーい、自分の呑んだ分だけ、金を置いていけよー
純      行ってしまった
autumn  気を取り直して、 続けましょう。この連載は、読者の反響としては、
        「面白い」というのと、「つまらない」というのに、はっきりと別れた
        みたいですね
撫子    こんなもの、面白いわけないじゃない
純      そうかなあ、けっこう楽しめると思うけど
autumn  毒が強すぎたかな?と思うところもあるんですけどね。面と向かって批
        判してくる人はいなかったですねえ
鞍手    批判するったって、あんたの連絡先が書いてある訳でもないし。やりよ
        うがないじゃないか
autumn  でも、日経MIXのms.dos/windowsでautumnっていったら、少しは有
        名のはずなんだけどなあ
鞍手    やだねえ。オタクの発想だよ
半村    そうそう。住所、氏名、郵便番号をはっきりと書いておかなくちゃ
autumn  違うぞ。日本で、インターネットがぜんぜん普及していないのが悪い。
        はやく、autumn@pd.co.jpで電子メイルが届くような環境が欲しい!
名無    その通りだ
autumn  うわあ、びっくりした
名無    あんな幼稚なパソコン通信などすぐにやめて、コンピューターは全て
        IP接続されるべきなのだ
autumn  ちょっとまって下さいよ。日本では、まだこれから、やっとLANが普
        及しようかというときに
名無    まさかとは思うが、パソコンでLANを組むのはあたりまえではないの
        かね?
autumn  まだ、あたりまえじゃありません!
名無    そうか。やはり、変なDOSとやらを使っているから、つなげられない
        のだな。せっかくIBM互換機を買ったのなら、みんな、UNIXを入
        れて、接続しようではないか
純      待ってください。パソコンには、NetWareというNOSがあるん
        です
山村    僕のところは、        LANManagerだ。ちなみに、
        LANManagerを「らんまん」と発音するのは、  MS関係者。
        「らんまね」と発音するのは、日本のメーカーの人。なんか、「らんま
        ね」と言われると、気持ちわるいんだよなあ。パソコンLANを馬鹿に
        されているような気がして
名無    馬鹿にされても仕方がないのではないかな?
山村    それは逆ですよ。とりあえず、パソコンのユーザーの立場で言えば、単
        に、ディスクとプリンターの共有ができれば、それだけで便利になるん
        ですよ。別に強力なセキュリティやネームドパイプなんていらないのに
純      あ、それって、NetWareLiteなんて、それを狙っているんで
        しょう?
名無    ううむ。発想が完全に違っている。相互に接続できないLANなど、い
        くらあっても意味がないと思うのだが
山村    やはり、LAN間接続のネックは、回線の問題と、機器の問題ですね。
        とりあえず、NTTには、ISDNをもっと普及させろ言いたいし、ネ
        ットワーク機器のメーカーには、ちゃんとカタログに値段を載せろと言
        いたいですね。安いISDNのルーターが欲しいぞー。
autumn  というわけで、 WindowsとIBM互換機が普及したら、次はLANだ!
        という結論でしょうか
鞍手    はいはい。そうですね、と。そこのにーちゃん、ビールと刺し身特上追
        加ね
半村    俺は、腹が減ったからイクラ丼の大盛りね
山村    僕は、この年代ものの地酒、瓶ごと持ってきて
真理    えーと、うにを大皿でください
autumn  こらこら、調子に乗らないで。あんまり金額が大きいと、割り勘にしま
        すからね
一同    お金なんて持ってきてないもーん
撫子    ちょっとなら持ち合わせありますけど
autumn  じゃあ、決まりですね。この場は、撫子さんのおごりということで……。
一同    さんせーい!
撫子    あー、わたしって最後の最後まで、ほんっっっとうに、なんてどん底の
        どん底に不幸なのかしら
autumn  というわけで、毎度のラストの台詞も出まして、おあともよろしいよう
        で。ちゃんちゃん
                   The End
(おことわり:この作品はフィクションです。登場する人物団体会社ハードソフ
ト等一切は架空のものです)

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作成:川俣 晶
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