シヌノラは、「男は殺せ、女は犯せ」の西部の掟に驚くほどよく馴染んだ女性です。
男なら誰でも犯したくなるような良い女であると同時に、犯されるという行為を拒絶しないで受け入れています。
ここで気になることは、シヌノラと西部の掟の相性の良さは、先天的なものか、後天的なものか、どちらであるかです。
実は西部の掟を理解していなかったシヌノラ §
最初のエピソード、「ガンフロンティアへの出発」において、シヌノラは市長の護衛2名と約束を交わします。
自分がホテルで2人に抱かれるのと引き替えに、トチロー達を狙う女達を射殺することを黙認するという約束です。
しかし、ナニが終わってホテルを出ると同時に、この約束は反故にされます。
シヌノラは「やられ損」という状況に陥ります。
これは、シヌノラが西部の掟を理解していなかったことを意味します。なぜなら、「男は殺せ、女は犯せ」という西部の掟を履行する際、代償は要求されないからです。つまり、シヌノラを犯すという行為の代償として、シヌノラは何かを要求できないのです。
続く迷走 §
「酒のない町の崩壊」では、金のために脱いで踊ることを表明しますが、客がおらず失敗します。このような表明は、「脱ぐ」と「金」が交換される契約が前提であり、まだシヌノラは「契約」が有効であるという思い込みから脱却できていません。
そして、シヌノラは組織の男「デラメダム」に抱かれることを通して、資金を受け取っています。ここでは、「契約」が有効な意味を持っていますが、それは西部の掟とは無関係の「組織の掟」に裏打ちされたものに過ぎません。
徐々に学習を始めるシヌノラ §
続く「大砂塵馬肉の歌」で、シヌノラは初めて一方的に奪われるだけのセックスを体験します。ムリグソンは強欲にも何もかも奪って去っていきます。シヌノラが得たものは、実質的に何もありません。ただ身体を奪われただけです。
更に、街中で全裸で吊されますが、これも一方的に視姦されただけで、シヌノラが得たものは何もありません。
このあたりから、シヌノラは西部の掟を身体で理解し始めます。
「イエロークリークに風が吹く」になると、何の代償も求めずトチローとハーロックに自分から身体を投げ出し、水浴び中に襲ってきた見知らぬ男には素直に身体を開いて快楽を楽しみます。
その後、町で組織の禿男に報告を行いますが、デラメダムのケースと違って、セックスと引き替えに資金等を求めたりはしません。ただ、さりげなく挑発して禿男に抱かれ、快楽を楽しんだだけです。これは、「女は犯せ」の掟を履行する意志のなかった禿男をさりげなく挑発して履行させたと見ることができます。
西部の掟を自在に応用するシヌノラ §
「聖バーボンタウンの決闘」では、組織の男「ファックスル」に抱かれ、そこでトチローを殺すと言われます。
ここで、ファックスルがシヌノラを犯すことも、トチローを殺すことも、「男は殺せ、女は犯せ」という西部の掟に合致した選択です。このことに、シヌノラは抗議をしません。
その代わり、シヌノラはハーロックにファックスルの殺意をハーロックに伝えたのでしょう。ファックスルはトチローを射殺する前に、ハーロックによって射殺されます。
この行為は、「男は殺せ」の掟に合致しており、西部の掟通りです。
つまり、この時点でシヌノラは思い通りに西部の掟を使いこなし、それによって自らに有利な状況を作り出すことができる段階に至ったと見ることができます。
完全なる掟の履行 §
「ガニマタ賛歌」は、シヌノラが西部の掟を完全にマスターしたことを証明する内容と言えます。
まず第1に、シヌノラは自分を襲うスルスキーを拒絶し、トチローとハーロックを呼びます。これは「女は犯せ」の掟に逆らう行為に見えますが、そうではありません。なぜなら、これは酒瓶で殴られたトチローを急いで医者に診せる状況で起こった出来事だからです。ここでシヌノラは女である前に一人の人間であり、人間にとって重要なこと(医者を呼ぶ)は、女に科せられる掟に優先されるのです。
第2に、シヌノラはカテリーナからの「脱げ」という要求に素直に従っています。そのあと、失神させられた後に、媚薬を使われて2人の護衛に犯されます。シヌノラは抵抗しません。ここで、シヌノラは完全に自分を「掟により犯されるべき女」として振る舞います。カテリーナに視姦されることも、フランス製の媚薬を使われることも、同時に2人の護衛から繰り返し犯されることも、快楽行為として受容しているように見えます。見事なまでに「女は犯せ」の掟を満たし、同時にその状況から自分も快楽を得てみせます。
第3に、その後シヌノラはトチローとハーロックのピンチに駆けつけ、ためらうことなく自分に快楽を与えた護衛2名を射殺しています。「男は殺せ」の掟を初めて履行したことになります。(シヌノラは「ガンフロンティアへの出発」において股製造の女2名を射殺していますが、作中で最初に射殺した男はこの2名です)
つまり、ここでは以下の3点をシヌノラが完全にマスターしたことを示します。
- 女は犯される存在であり、拒絶する意味もないし、交換条件も出せない。ともかく素直に受け入れるしかない
- 男は殺して良い。女が殺しても良い
- 掟に優先される状況がある
応用事例 §
「怒髪大用心棒」では、男に犯されている最中にシヌノラは相手を射殺しています。
この事例において、一見シヌノラは「女は犯せ」の掟の履行を拒んでいるかのように見えます。しかし、この事例において相手の男はシヌノラを殺そうとしていました。つまり、相手の男は「男は殺せ、女は犯せ」の西部の掟に反して、「女を殺そうとした」わけです。
このような状況で、相手が掟に違反している以上、シヌノラは相手に犯されることを拒絶しても良いことになります。そして、シヌノラが男を射殺することは、掟の正当な履行の一部となります。
結論・シヌノラが西部に来たのはいつか §
以上のように、シヌノラは徐々に西部の掟に馴染み、自分のものとしていく過程を見て取ることが出来ます。
従って、登場当初のシヌノラはまだ西部の掟に馴染んでおらず、シヌノラが西部に来たのはトチローやハーロックと出会う直前と考えるのが妥当でしょう。
それ以前はアメリカ東海岸方面にいたと考えてよいのではないでしょうか?
そして、シヌノラと西部の掟の相性の良さは、先天的なものか、後天的なものか、という問いへの答えも出ます。学習の素早さと、的確な応用力から見て、相性の良さは先天的なものと思って良いと思います。