書誌情報他 §
タイトル: ガンフロンティア~ハーロック&トチロー青春の旅~
著者:島崎譲 (原作・総設定・デザイン 松本零士)
出版社:秋田書店
レーベル:チャンピオンREDコミックス
ISBN:978-4-253-23632-4
発行日:2017年6月1日 (初版)
著作権表記:© Leiji Matsumoto/Yuzuru Shimazaki 2017
サブタイトル §
- 第1話 男に二言はねえっ!!
- 第2話 男の友情は固いのだ!
- 第3話 にらめっこはキライだ!
- 第4話 泣きたいだけ泣け!
- 第5話 馬よ泳げ!
- 最終話 旅は続く!
補足 §
- 全1巻である
- エクスクラメーション(!)の個数は第1話のみ2個である。他は1個である。
- 第6話という表記はなく最終話と明示されているので、おそらく続きは存在しない
- 本書には印刷版と電子版が存在するが、本サイトでは【電子版】の用語はオリジナル松本版の電子版を示すものとして、本書は示さないとする
- 本書の略称は本ページでは【本書】で統一した
- 著作権表記に電子版で含まれていた零士社は含まれていない
内容について §
細かい相違点をカウントすると切りがないので、目立った相違だけまとめる。
基本設定 §
基本設定は原作をほぼ踏襲している。
最大の相違点は舞台設定と世界の掟にある。
舞台設定は、謎が多い。第1話冒頭の巻物に、【ここは 大宇宙のとある星 自由と無法渦巻く大開拓地(フロンティア)】と書かれているが、宇宙に関わる話は全く作中に出てこない。
可能性として、「とある星はなぜか都合良く西部開拓時代そっくりの星がある(銀河鉄道999でよくあるパターンである)」と、「大宇宙のとある星とは地球のことであり、大開拓地(フロンティア)とはアメリカの西部開拓時代の西部である」と見なす考え方がある。どちらが正しいかは明示されていない。
もしも、異星であるとすれば、旧式の武器だけを持って大地球の荒野に乗り出したワダチに近い世界観である。
もしも、地球であるとすれば原作に忠実である。
世界の掟に関しては第1話冒頭に【法があるようで無い世界 銃を手にして男がノシ歩き 男が男であればよい世界】としていて、【男は殺せ】という明示的な掟は存在しない上に、女に関する言及はない。女は犯して良いという不文律は存在しないようだ。(もっとも原作でも【男は殺して良い、女は犯して良い】という不文律があるようには見えないが)
第1話 男に二言はねえっ!! §
原作【ガンフロンティアへの出発】に対応。
街に到着するまでの展開はすべて原作に存在しない。原作は街の質屋から始まる。
本作では、質屋のシーンになる前に【ハーロックと不明ガンマンとの決闘勝負、賞金をもらいに保安官事務所に行く、荒野で行き倒れる、シヌノラとの出会い】が存在する。ただし、賞金をもらいに保安官事務所に行く展開は原作で質屋の護衛として強盗を倒した後の展開の前倒しと考えられる。もう1つ、元気百倍栄養剤(原作にはない)がトチローにだけ与えられ、トチローだけ元気になる展開は、【女医・サン・ダウナーズ】でハーロックとトチローの精液を飲んだシヌノラだけ元気になる展開の変形再現という可能性もある。
質屋の主人と保安官の関係は、原作と異なっている。保安官が悪党で、質屋の主人を含む市民全員が被害者である。市長と市長の護衛は登場しない。
質屋に入る強盗は原作と違って一人である。女性連れの強盗は来ない。従って、二人目の強盗が連れて来た二人連れの女性は登場しない。彼女らに関連する展開は全て存在しない。ハーロックとトチローを殺しに来るのは、二人の女性が肉体で誘惑して従わせた殺し屋ではなく、最初に殺した強盗の手下8人である。
ハーロックとトチローが死体を埋めるために掘る場所は街中ではなく、墓地である。墓地では、墓が多すぎることが示されてよそ者は殺されるという話の伏線となる。
原作ではうやむやのうちにシヌノラが仲間になっているが、本作では金が無いハーロックとトチローに金を出す代わりに自分も連れて行ってくれとシヌノラが頼む形を取る。(パスをあげるから一緒に旅をしてくれという銀河鉄道999的なムードがある)
従って、質屋以降の展開はかなり異なった形となる。
- 銃を持ってシヌノラに謝りに行く展開は無い
- 従って、銃を質屋に持ちこむ展開もない
- シヌノラは質屋の主人に裸を見せていない
- 銃が高値で売れることもない
- 女達が肉体を武器に殺し屋を作り出している場面を覗く展開はない
- シヌノラが市長の護衛二名と連れ込みに入り、トチローとハーロックが待っている展開もない
- 市長がいないので、市長が銀行強盗という設定もない
- 保安官が悪党である。よそ者を戦わせるのは保安官の方針である。
- 戦闘中に保安官は女をレイプする。シヌノラはレイプされる。他の街の女もレイプされていて恨みを買っている (保安官が悪党という設定は原作にも多いが、レイプ犯という設定は珍しい)
- 保安官は組織の者ではないがシヌノラの正体を知っている
- 保安官が死んで街のみんなが喜ぶ
最終的に「時々女にもなってあげる」で原作の流れに戻る。
第2話 男の友情は固いのだ! §
原作【酒のない町の崩壊】に対応。
ただし、花が溢れた街は【ベアロックの固い肉】のフラワータウンと思われる。また、やたら丁寧に何にでも「お」を付ける言葉遣いの街は【さらば ガンフロンティア】の街と思われる。
デラメダムがあまり訛っておらず丁寧な言葉を使う。
強盗に遭う前に街に行く展開がある。
強盗は駅馬車の客の女を連れ去り、その場でレイプして殺さない。従って御者夫婦の墓を掘る展開は存在しない。ただし殺された護衛の兄(御者)が生存しており、弟の墓の前で泣く。これは【さらば ガンフロンティア】で猫が死んだと泣いている男に対応するものだと思われる。
シヌノラは酒場で脱いで踊ることを提案しない。
シヌノラはデラメダムに抱かれているが、その際に渡される金は【強盗したお金】と明言されている。
デラメダムが強盗だと信じない人たちから脱出するためにシヌノラが馬車を走らせて割りこむ展開がある。
最終的にすれ違う先住民が、護衛の兄(御者)となっていて、原作では曖昧だったトチロー一行が見逃してもらえる理由が明確化されている。
第3話 にらめっこはキライだ! §
原作【大砂塵馬肉の歌】に対応。
原作ではムリグソン接近を察知できなかった理由が曖昧だが、一人でトイレに離れたシヌノラを人質に取られたと明確化した。
シヌノラとムリグソンのセックスは、ただの欲望に任せたレイプではなく、ゴーストウェスターナーのことを知っているムリグソンに対して、シヌノラが何でもすると持ちかけた。(が、失神したトチローとハーロックは気づいていない)
シヌノラはこの時点で、ゴーストウェスターナーという言葉は知っていたが、イエロークリークという言葉は知らないとなっている。
3人が縛り首で吊される順序は、原作では左からトチロー、シヌノラ、ハーロックだが、本作では左からハーロック、トチロー、シヌノラの順になっている。つまり、最も手前に全裸のシヌノラが来るようになっている。シヌノラに掛かった縄の位置は原作と同じ。ブーツだけ履いているのも同じだが、トチローとハーロックは縄が服の上から縛ってあるのが見える。(原作は恐らく後ろ手しか縛っていない)
ちなみに、3人の足の下の樽の個数だが、原作通りトチローだけ2個である。(背が低いから)
街を出た後、ムリグソンと再会したとき、原作ではゴーストウェスターナーのことを語るが、本作ではトチローとハーロックにシヌノラの正体を警告する内容に変更されている。そのあと、この段階でトチローとハーロックはシヌノラの正体を薄々察した上で許している。(やや展開が早い)
第4話 泣きたいだけ泣け! §
原作【イエロークリークに風が吹く】に対応。
闇のシーンはなく、いきなりハーロックが男の友情で馬車を離れている。
「ハーロックのぞくなんてずるいわ」「ハーロックじゃない」という展開が、「のぞきだ」「ハーロックが?」「ちがーう」となっている。つまり気づくのはシヌノラからトチローに変更されている。
水浴びの展開で、戻ったはずのシヌノラが戻っていない(レイプ犯と一緒にいる)という展開は存在しない。レイプ犯に対応するのは、暗殺者であり、シヌノラのオナニーに見とれるだけの存在。水の入った銃を撃って暴発させて自滅するのは同じ。
従って、シヌノラがレイプ犯に犯されている場面をハーロックとトチローに見られて「見ないで」という展開は存在せず、その代わりに暗殺者に見せつけて油断させるために水中でオナニーするシーンが追加されている。
街に入ったら絡んできて、説明されると消える男のシーンは丸々無い。
その代わりに、トチロー達が別れて行動し、単独のシヌノラが組織の男に声を掛けられるシーンが存在する。
「二人相手では身体がもつまい」と言って一人始末しようとした組織の男がハーロックを撃って返り討ちに遭う理由が、【シヌノラが組織の男に抱かれている時にトチローが部屋の外で聞いていた】から【シヌノラが自分からハーロックに情報を漏らした】に変更されている。つまり、この時点で明確にシヌノラは組織を裏切っていると変更されている。その直後にイエロークリークを横切っているので、イエロークリークに行く前にシヌノラはトチローとハーロックの味方になっている。
第5話 馬よ泳げ! §
原作【雨の殺し合い】に対応。
雪風摩耶の家は丘の上にあると明確に設定されている。
トチローは最初から雪風摩耶の名前を知っている。
雪風摩耶は「来ないで」とトチローに警告する。
ヘデルノヤが雪風摩耶を殺した理由が【サムライサーベルで家族を殺されたから】から【自分の妻になることを承諾しなかったから】に変更されている。
ヘデルノヤの死因が、トチローの股間へのキックから、ハーロックの銃に変更されている。
ちなみに、最後のコマの表現は少し違うが洪水に馬車が押し流されることを【馬車式外輪船】というのは同じである。
最終話 旅は続く! §
原作【メガネのバッファロー】に対応。(【聖バーボンタウンの決闘】は飛ばされている。それを除けば原作通りの順番に進行している)
冒頭の狙撃シーンで、原作では狙撃者の顔がはっきり分からないように描かれているが、本作では明確に顔が描かれている。
狙撃されながら足だけ砂から出ている足を見に行き、そこで原作では何かに気づいたことまでしか示されないが、本作では「仲間の女だ」と明示されている。
馬3頭は、肉屋に入る前に登場している。それらは、「町長と旦那と腰ぎんちゃくの馬」から「町長と旦那と弟の馬」に変更されている。
殺したのはメイドのヤヨイであることが、酒場でアクメータとマライネンのセックスを覗いているときに明らかになる。
原作では、アクメータとマライネンは覗かれたことを知った上で「今は」と前置きした上で不問に付したが、本作では気づいていない。(棚が崩れた音に気づいただけ)
終盤の展開は変更されている。原作では最初に肉屋が街を出て狙撃されるが、この展開がない。その代わり、大便をアクメータにとがめられてトチローとハーロックが街を追い出される(そこまでは原作通り)。そして、ハーロックを狙撃しようとして後から忍び寄ったトチローにマライネンと弟(推定)は殺される。
アクメータとマライネンは組織の裏切り者に変更されていて、シヌノラに成敗される形になる。シヌノラはアクメータを殺されたあとで、自分も裏切り者だから謝ったら命は助けようと思っていた……と思う。
街を立ち去る時に乗る馬は原作では二頭で、ハーロックとシヌノラは一緒に乗っているのだが、本作では3頭で一人ずつ乗っている。馬の数を厳密に考えるなら、本来街の馬は3頭。このうち、原作では馬で走っているアクメータがシヌノラに撃たれているので、馬はどこかに走って去ったと考えられる。だから残っている馬は二頭。これに対して、本作はアクメータが馬に乗る前にシヌノラに撃たれているので馬は大人しく繋がれたままと思われる。つまり、馬は三頭ある。トチロー、ハーロックのところにシヌノラは馬で駆けつけているので、アクメータの馬はシヌノラが乗ってきたと思われる。マライネンと弟(推定)が乗ってきた馬(トチローが連れてきた)と合わせると三頭あって、計算が合う。
全般的な共通点と相違 §
- ストーリーの大きな流れと細部の細かい描写は驚くほど原作に忠実である。まさか【馬車式外輪船】という表記まで完全に同じとは思わなかった。見比べて脱帽した。
- 連載が短い関係上と思われるが、シヌノラの正体が判明するタイミング、シヌノラが明確に裏切るタイミングが前倒しされている
- 連載が短い関係上と思われるが、割と先のエピソードにあったと思われる要素が前倒して取り込まれている場合がある
- 向き、コマ割り等の絵の描き方は大きく違うが、それにも関わらず「らしさ」がにじみ出ている
- エロさは抑え気味である。特に、多人数プレイの要素や、シヌノラが他の男としている状況を覗くという展開はない (「オレノゾク」は原作ではトチローの印象的な台詞だが、本作のトチローはそういう行動には出ない)
- 理不尽な展開は抑え気味である
- もともとシヌノラの性格は破綻しているので、性格が付け直されて筋が通されている。芯の強いエージェントの女性となっていて、理由も無く男にサービスするような展開はなくなっている。
- また、女が奉仕することは当然という男尊女卑的な価値観も抑えられている
個人的な感想 §
たとえば、市長の護衛二人と連れ込み宿に入る展開が存在しないのは残念である。
残念であるが、では代わりに存在する悪党保安官にレイプされる展開はつまらないのかといえば、そうでもない。なぜなら、おまえの正体は知っているから大人しくレイプされろと全裸のシヌノラにのしかかってくる悪党保安官と、立場上悪党保安官を拒否できずに受け入れてしまうシヌノラの描写それはそれで燃えるからだ。諦めて快楽に逃げ込むシヌノラの表情はそれはそれで良い。そういう意味で、変更された箇所も割と良い変更だと思う。
だた、そうすると【紳士タタンダール】は入浴中のシヌノラをトチローが覗くことでストーリーが進行するわけで、より紳士的になったトチローで話がどう進行するのか興味のあるところだ。実際にはそのエピソードに相当するエピソードは描かれていないが、もし描かれたどんな内容になっていたのだろうか。組織と関係なくひたすらシヌノラの性的奉仕を求められるだけの【ベアロックの固い肉】【ゴーストタウンの地底人】などもどう描かれるのか気になるところだ。
そういう意味で【もし全話描かれたら】という可能性を考えなくもないが、後に行けば行くほどどうでも良い内容のエピソードが増えていくので、後半のエピソードの要素はエッセンスだけ前倒しして取り込むだけで良いのかも知れない。