シヌノラは、いろいろな目的で組織のために自分の身体を差し出していると言えます。
目的別に作中の最初の行為をリストしてみます。
- 異民族の調査のため、異民族の男と交わる→「イエロークリークに風が吹く」にて。相手はトチロー
- 組織の鉄の掟により上級エージェントに抱かれる→「酒のない町の崩壊」にて。相手はデラメダム (ただし、デラメダムとの関係がどのようなものかの描写はないので、不正確である可能性もある)
- 調査任務を遂行するために必要とされる行為→「ガンフロンティアへの出発」で質屋のオヤジに裸を見せたとき。性行為そのものなら、「ガンフロンティアへの出発」で市長の護衛2名に抱かれたとき
しかし、この3つのケースのいずれの場合も、シヌノラには緊張や焦りは見られません。
従って、シヌノラが組織のために身体を差し出すのは、これが初めてではないと推定しましょう。
シヌノラの身体は組織の窮状を救った §
「若いシヌノラは本当に生物学者なのか?」より、「組織の生物学者」の人物像を再掲します。
組織の立場から、「組織の生物学者」に適した人物像を考えてみましょう。
自分の人種を隠して生活する異民族を判定するには、彼が行う偽装を解除させねばなりません。それと気付かれずにそれを行う手段として、若く美しい女性は適していると言えます。その者と寝れば、相手を油断させ、相手を裸にして観察できるわけです。
このような仕事を行うために、そのような女性には以下のような資質が要求されます。
- 警戒心の強い異民族の心に入り込めるだけの女性的な魅力
- 誰とでも寝られるモラルへの割り切り (それが「人間扱いされない薄汚い劣等種族」であっても)
- 的確な判断を行う知性を持つ
おそらく、シヌノラはこの条件を満たす希有な人材です。
シヌノラが条件を満たす希有な人材ということは、彼女以外にそれが出来る人物はほとんどいないことを意味します。
従って、組織は隠れ異民族の調査がスムーズに行うことができず、困っていたはずです。
その窮状を知った「組織の協力者である亡命貴族の一員」のシヌノラが、あくまで緊急避難的な措置として、自分の身分を隠して協力するというシチュエーションはあり得るでしょう。何しろ、シヌノラは優しい女なのです。
要求された秘密 §
とはいえ、それは表沙汰になるとまずい状況です。
亡命貴族を異民族に犯させた……などと知られたら組織は困った立場になるでしょう。
あくまで、それは緊急避難的に秘密裏に行われねばならなかったのです。
必然的に、シヌノラは長く家を空けることが出来ません。
西部になど行くことはできず、仕事はシヌノラの住むニューヨークから近い範囲に限られたと考えるのが自然でしょう。
シヌノラは偽名か本名か? §
以上のような成り行きからすれば、組織がシヌノラを呼ぶ際に使う「シヌノラ」という名前が偽名であることは明らかでしょう。シヌノラが単なる「シヌノラ」であって、上の名前も下の名前もないことも、偽名であることの1つの証明と言えるかもしれません。
組織の男に抱かれることを回避できない §
「若いシヌノラは本当に生物学者なのか?」で、以下のように書きました。
一方で、「上級者に絶対服従」という組織の掟は、組織のたいていの人間がシヌノラを犯すことを正当化します。
それどころか、汚された身体を白人の綺麗な血で清めてやる……などという理屈で犯されることを感謝されるべきという態度すらあり得るかもしれません。
もっと言えば、組織の性欲処理係、精液公衆便所のような扱いを受ける可能性すら否定できない話でしょう。
これらは、「西部の掟」ではなく、「組織の掟」がもたらす状況であるため、シヌノラが西部に来る前にも適用され得る状況です。
従って、自分が亡命貴族であるという立場を隠したシヌノラは、事情を知る少数の組織の者達を除き、他の者達から「組織の性欲処理係」として使われる状況を回避できません。
ここで、シヌノラは、組織の上級エージェントに抱かれるという体験を日常的に繰り返したのではないかと推測されます。
男を操縦するシヌノラ §
しかし、「組織の性欲処理係」として使われる状況は、災い転じて福と成すことができます。つまり、組織内の広範囲の男性に日常的に抱かれるということは、それを通して情報を集め、また影響力を発揮することを可能とします。
フランス貴族の家柄のシヌノラからすれば、アメリカと称する田舎の男達をあしらう事ぐらい、容易なことだったでしょう。
西部に旅立つシヌノラ §
このような状況下で、シヌノラは自分が望む場所に行くための任務を組織に命令させることぐらい、たやすいことだったのでしょう。
つまり、シヌノラが西部に行ってゴーストウェスターナーの男性自身を確かめたいと思ったとき、そのような指令を自分に出させることも可能だったのでしょう。
しかし、シヌノラは西部に行くことによって、東海岸で持っていた情報網と影響力を失うことになります。それらは身体を通じて達成されたものであり、身体が別の場所に移動しては維持できなくなるわけです。
危機レベルを見切ったシヌノラ §
シヌノラはトチローとハーロックに肩入れし、組織に反逆します。
これは、一見して無謀な選択にも思えます。
トチローとハーロックへの愛がそれだけ深いと見ることも出来ます。
しかし、上記のような状況を想定すると、別の解釈が可能になります。
つまり、シヌノラは組織の全容をほぼ把握していて、反逆しても逃げ切れる可能性が十分にあることを知っていたという解釈があり得ます。
最強の貴族令嬢 §
以上のような仮説が事実であれば、シヌノラは驚くほどしたたかで強靱な女性です。
女性の地位が低い時代であるという背景を踏まえるなら、シヌノラの取った行動は、非常に的確です。まず、シヌノラは男性が常に上位にあり、女性を支配している状況を「自分自身が男性に服従してみせることを通して」明瞭に肯定して見せます。そうやって男の油断を誘ってから、自分が望む通りの状況を相手に強います。
事実、作中でシヌノラは裏切った後まで組織のエージェント達と会い続けます。自分の身体を投げ出し、相手に犯させます。それを通して、シヌノラは組織の情報を引き出しているわけです。実にタフな女性と言えます。