最近、急に気付いたのですが、『ワイルド・ウタマロ』というエピソードも極端に謎が多いのです。一見して、「定番のシヌノラ輪姦」+「裏切り者日本人を一刀両断」というストーリー構成に見えますが、そのような解釈では説明できないことが多くあります。特に、インディアンがトチロー達を助ける理由が明確になりません。
このエピソードは、最終的にシヌノラの立場の終着点となる「日本人の女」というテーマの提示部という役割を持っていると考えると全体がすっきりと解釈できることに気付きました。ちなみに、「日本人の女」(日本人男に従属する白人女)というテーマと対立するものは、「白人女に従属する日本人男」となります。
ここでは、「あらすじ」の提示、「謎」の抽出、解釈と考察という順に話を進めます。
ご注意 §
ここでは、不正確かつ不適切であると踏まえた上で、本編の記述に従って「インディアン」という表記を使用しています。
あらすじ §
- トチロー達は、特に不満もない良い街にいた
- 馬車を買い、旅立ちの準備は既にできていた
- しかし、トチローとハーロックは初めて見る汽車に乗りたいため、馬車を売って汽車に乗った
- トチローが車内に入ろうとすると人種差別的にたたき出され、豚を運ぶ貨車の豚からの拒絶され、吹きさらしのデッキにいることを強要される
- ハーロックとシヌノラは車内に入ることを許される
- シヌノラはトチロー一緒にデッキにいることにする
- ハーロックも「よく見れば黄色い」という理由でデッキに叩き出される
- トチローとハーロックは、イエロークリークの仲間を売った裏切り者のワイルド・ウタマロが汽車の行き先であるドジ・シティにいるため、差別に対して自重する
- 白人のシヌノラは「ミルクでも飲みませんか」と誘われて車内に招き入れられる
- シヌノラはトチローとハーロックのミルクの方が良いと言って車内に入る
- シヌノラは銃を突きつけられ、服を強制的に脱がされる
- 車内の者達はシヌノラの正体を知っていて、生物学的方法=性行為によって、日本人の居場所を答えることを強要する
- 性行為中の会話の主たる話題はウタマロとなる。車内の者達はシヌノラに、「ウタマロの奥さんは拳銃の名人」「彼女がウタマロを守っている」「彼女は白人」「自分たちもウタマロのボディーガード」「ウタマロはまだ秘密を知っていて殺せない」といった情報を伝える
- 車内でシヌノラを犯す男達を言葉でけしかける老婆がいる
- トチローはシヌノラが犯されている事実に気付く
- インディアンがトチローとハーロックに「この先は線路がないから飛び降りろ」というアドバイスを与える
- トチローとハーロックは車内に突入し、車内の者達を射殺するとシヌノラ連れて車外に飛び出す
- 壊れた橋に向かって走った汽車は谷底に落下する
- トチロー達はウタマロの屋敷にまっすぐ進む
- 執事を殺してウタマロの部屋へ行くと、ウタマロと奥さんは性行為の最中だった
- ハーロックは全裸の奥さんにガンベルトを着ける猶予を与えると早撃ち勝負に勝って奥さんを射殺した
- トチローとウタマロの刀の勝負は、ウタマロの方が腕が立つにも関わらず、贅沢な暮らしに慣れすぎていて、トチローの勝利に終わる
- トチロー達は次の街に旅立つ
- なぜ、最初から混血であると明言して車内に入ったハーロックは、後から「黄色い」という理由で車内から叩き出されるのか
- なぜ、トチローは白人だけでなく豚からも拒絶されるのか
- シヌノラを犯すために、なぜ銃を突きつける必要があるのか。更になぜ彼らは強制的にシヌノラの服を脱がす必要があったのか。(この時点で、まだシヌノラの裏切りは疑惑でしか無く、組織の上級エージェントがシヌノラを抱くためには「鉄の掟」により「脱げ」と命令するだけで良い)
- シヌノラは日本人の居場所を既に知っているはずだという前提で、それを自白させるために性行為を行うという建前が示されるにも関わらず、次のコマで行われるのは強制的にシヌノラの口を塞ぐフェラチオ行為(つまり喋れない)のはなぜか
- その後の会話にも、日本人の居場所に関するやり取りは出てこないのはなぜか
- 輪姦されるシヌノラは、拒否感を示すことはなく、むしろ快楽を楽しんでいるように見えるのはなぜか
- 車内の婆さんは、シヌノラ自身が呆れるほど、シヌノラを犯すように男達をけしかけているのはなぜか (「シヌノラ自身が呆れる」とは、「やんなさい やんなさい もっと もっと」のコマで、犯されながら婆さんを見ているシヌノラが「…… ……」という台詞を持つことからの推定)
- なぜ、インディアンは「肌の色が同じではない」にも関わらずトチロー達を助けるような助言を与えたのか
- そもそも、インディアンがこの列車を谷底に突き落とそうと考えた理由は何か?
- なぜ白人の美女がウタマロの奥さんになったのか
- なぜウタマロは白人賛美主義という思想を持つに至ったのか
- ウタマロの奥さんはなぜ拳銃の名手なのか
- ウタマロの奥さんはなぜあっさりハーロックに負けたのか
- ウタマロはなぜあっさりトチローに負けたのか
- 組織が知りたがったウタマロが持つ秘密とは何か
勢力分布 §
このエピソードを考察するには、まず利害関係を異にするグループごとに人々を分類することから始めねばなりません。「敵」「味方」といった大ざっぱな分け方では対処できません。
- 孤立した日本人 (トチローとハーロック)
- 組織の生物学者 (シヌノラ)
- 裏切り者の日本人 (ウタマロ)
- 日本人を守る拳銃の名手の白人美女妻 (ウタマロの奥さん)
- 組織から派遣されたウタマロの護衛
- インディアン
この者達の間には、決定的なねじれが存在します。
護衛は、本当ならウタマロを殺したいにも関わらず、「ウタマロの奥さん」と「まだ話していない秘密」ゆえに、逆にウタマロを守る護衛として活動しなければならない矛盾を抱えています。
また、ウタマロの奥さんは、銃を使うという「男の属性」を持つ美女です。極めて矛盾した存在です。
そして、言うまでもなく組織の鉄の掟に従属しつつトチロー達への好意を持つシヌノラも矛盾した存在です。
更に言えば、自分を流れる日本人の血を否定するウタマロも、矛盾した存在です。
これらの矛盾があるがゆえに、このエピソードは単純に敵味方に分けられない曖昧な混沌を抱え込んでいます。
シヌノラと護衛の関係 §
勢力分布に関してもう1つ重要なポイントとなるのは、シヌノラと護衛の関係です。両者はどちらも組織に属しています。しかし、護衛がシヌノラの上級エージェントであれば、当然シヌノラの行動は把握しているはずだし、命令1つでいつでも犯すことができるはずです。しかも、上級エージェントはたいてい1人です。つまり、護衛は上級エージェントとは考えられません。
とすれば、以下のことが推測できます。
- シヌノラと護衛は、所属組織が同じというだけで、全く別系統の命令系統で動いている
- つまり、護衛はシヌノラの上級者ではない
- 護衛は人数が多いことから、下っ端の現場の実働部隊という可能性もあり、その場合はシヌノラと同格の存在という可能性もあり得る
従って、護衛にはシヌノラを犯す正当な権利は存在しないと考えられます。
もちろん、西部の掟として、「女は犯せ」がある以上、その掟を持ち出せばシヌノラを犯すことができます。
しかし、彼らは「シヌノラが知り得た情報を秘匿している」という架空の罪状をでっちあげ、強制的に情報を吐かせる措置が必要であるという理屈を構築した上で無ければシヌノラを犯せません。彼らはおそらく東部の理屈で動く男達なのでしょう。
それゆえに、彼らは執拗に日本人の居場所をシヌノラに問い詰めたりはしません。むしろ、正直に答えられたから「尋問という名の性行為」を継続できなくなるので、それは困るのです。従って、「しゃべるようにしてやるぞ」と言いながら、床に押しつけたシヌノラの口を上から塞いでフェラチオさせ、「しゃべらせない」ようにする必要があったわけです。
更に言えば、シヌノラがこの快楽行為を好意的に受け入れて、護衛達に自発的に身体を開くと分かった後は、もはや「尋問」という側面は消えて無くなり、会話は単なる雑談のレベルに落ちていきます。
したたかなシヌノラ §
ただし、この「雑談」はシヌノラの情報収集という観点からは圧倒的にシヌノラ優位になります。シヌノラは、ウタマロと奥さんに関する多くの情報を手に入れています。従って、護衛達に屈服して喜んで犯されるシヌノラの態度は、情報収集のためのある種の演技という側面があったと考えられます。
ただ、全てが演技であるかは別途検討の余地があります。というのは、苦しい任務に身体を張って動員される同格の下っ端エージェントであるとすれば、心痛を共有していたわる気持ちが起きる可能性もあり得るからです。
護衛の立場を考察する §
これらの立場の中で、もっとも本音を考察しやすいのは護衛です。シヌノラとの行為中に、口が軽くなっていろいろと語っているからです。
まず、護衛が忌々しいと思っている対象は、ウタマロです。しかし、「拳銃の名人の美人の奥さん」と「まだ語っていない秘密」によって、ウタマロを殺すことはできません。しかし、これは護衛達にとってそれほど大きな問題ではないと考えられます。つまり、この2つの条件さえ除去できれば、ウタマロを殺すことは造作もないことだからです。いかに刀が上手く使えても、不意打ちで銃弾を撃ち込めば殺すのは容易です。そして、護衛という立場であれば、そのようなチャンスはいくらでもあります。
それよりも護衛の立場で問題となるのは、奥さんです。
奥さんは白人で、美女です。
つまり護衛から見ると、以下の条件を満たしてしまいます。
- 白人とは日本人のような醜い者達から守るべき対象
- 女とは様々な危険や脅威(日本人を含む)から守るべき対象
従って、護衛は彼女を守らねばなりません。
ところが、彼女は除去して守るべき対象である日本人の妻となっています。
この矛盾状態は解消されねばなりません。本作に見られる最もストレートな方法は、レイプして白人の男の良さを教え込み、日本人を忘れさせることでしょう。(作中では「ガニマタ賛歌」においてカテリーナが行った手法)
しかし、彼女は拳銃の名手であり、護衛では戦って勝てず、レイプできません。
従って、矛盾を解消することはできません。
これが、護衛のトラウマとなっていることは間違いないでしょう。「けたくその悪い」という表現に、そのような心情が現れているという解釈もあり得るでしょう。
まとめると、護衛の心情は以下のように要約できます。
- 白人男よりも日本人男に忠義を尽くす白人美女を犯してめちゃくちゃにしてやりたい
これがこのエピソードを解釈するキーかもしれません。
護衛から見てシヌノラは奥さんに重なった §
護衛の立場でシヌノラはどのように見えたでしょうか。
- 黄色い猿がいきなり車内に入ってきたので叩き出した
- その後、シヌノラは白人に見える混血男と一緒に車内に入ってきた (日本人への過剰な好意その1)
- (この時点で、おそらく護衛はシヌノラ、トチロー、ハーロックの正体に薄々気付いている)
- シヌノラは水を持って車外の黄色い猿のところに行く (日本人への過剰な好意その2)
- シヌノラは、そのままデッキにいる黄色い猿に従い、車内に戻ってこない (日本人への過剰な好意その3)
つまり、シヌノラはこの時点で護衛の目から見て「白人男よりも日本人男に忠義を尽くす白人美女」と見えてしまいます。「白人男よりも日本人男に忠義を尽くす白人美女を犯してめちゃくちゃにしてやりたい」という心情を持つとすれば、ここで「同じ組織でゴースト・ウェスターナーの謎を追う」という以外にこれといって接点のないシヌノラを犯したいという欲求が生じます。
婆さんも犯したい欲求を持つ §
ここでいう護衛には男だけでなく婆さんも含まれます。
ウタマロと奥さんの問題は、性欲の問題ではなく、実は護衛から見て正義と秩序の問題です。誤った道に踏み込んだ白人女に対して、白人男の良さを教え込んで正常な道に引き戻す行為は、正義と秩序を回復する手段の1つです。(あくまで、作中の心理の推定であり、それが一般論として正義と秩序というわけではない)
従って、護衛の1人として日本人に忠義を作る白人女の周辺にいて、そのことに常日頃から不満を抱いていたとすれば、やはり婆さんも「シヌノラを犯す」という行為を通じて不満を癒すことを試みる可能性があり得ます。しかし、自ら「犯す」行為に参加できない以上、エキサイトして激しい言葉を用いて男達をあおり立てるしかありません。
状況を再整理する・トチロー達はイレギュラー §
ここで、もう一度状況の整理をやり直してみましょう。
護衛達はシヌノラを犯すために、わざわざ同じ列車に乗ったのでしょうか?
それはあり得ません。なぜかといえば、彼らはウタマロの護衛であり、ウタマロのいる街に戻るために汽車に乗ったのです。それは当初から予定通りの行動だったのでしょう。
イレギュラーな行動を取ったのはトチロー達の方です。彼らは馬車の準備が全て整ったにもかかわらず、唐突に汽車に変更を行います。
つまり、汽車内のエピソードにおいて、トチロー、ハーロック、シヌノラの存在は全て予定外のイレギュラーな状況だったと考えられます。
このことは、インディアンの行動を解釈する上で、大きなヒントになります。
インディアンの目的は何か? §
インディアンは橋を破壊することによって、列車を谷底に突き落とします。
しかし、単純に「憎い白人を1人でも殺す」ために行った、とも考えられません。本作においてインディアンは、多少野蛮な行為も見られるものの、サムライと並ぶ「高潔な戦士」という位置づけられているからです。
従って、この破壊工作には、それを行わねばならない理由があったと考えられるでしょう。
ここで、この列車の乗客はイレギュラーに乗り込んだトチロー達を除くと護衛達だけだったらしいことから、この破壊工作は「護衛の抹殺」のために行われたと推測することもできます。
これは合理的な理由として十分に考えられます。護衛は護衛である以上、相応の戦闘力を持っているはずであり、正面から戦えば大きな損害が考えられるからです。
そのような推定は、更に以下の2つの推測に発展します。
- 護衛以外のイレギュラーに乗り込んだ客まで殺すのは、高潔な戦士としては許容できない。だから、わざわざ忠告に出向いた (肌の色が同じではないが助けるという筋の通らない説明になるのは、部外者に本来の意図を伝えないとすれば合理的な台詞になっている。また、インディアンが姿を見せれば護衛を警戒させる可能性もありリスクが高いが、それにも関わらず、わざわざ忠告に出てくる)
- インディアンの最終標的はウタマロであった (護衛を排除するのは、ウタマロ攻略の布石)
インディアンがウタマロを狙うのは、ウタマロが持つ白人上位思想からすれば当然の成り行きでしょう。ウタマロの思想は、日本人だけでなく、インディアンも踏みつけにするものです。それを、白人ですらないウタマロが行うことは、十分に許し難い行為と考えら得れます。
ウタマロとは何者か? §
ウタマロが持つ白人上位思想は、ウタマロ自身が抱くにしては不自然です。つまるところ、自己否定だからです。その思想は外部から来たと考えるのが自然です。
自分が属する民族すら裏切る大きな転向があるとすれば、よほど大きな何かの存在が想定されます。ウタマロの奥さんは、その「大きな何か」に値する存在感を持ちます。
ウタマロの思想が奥さんによって植え付けられたとすれば、ここで推理すべきはウタマロではなく、奥さんであるかもしれません。
ウタマロの奥さんとは何者か? §
ウタマロの奥さんは、白人美女であり、拳銃の名手です。
銃とは男を象徴するアイテムであり、銃を使う女とは強い男性性を持つ女性であることが推定されます。
そして、銃に象徴される男性性とは、女性的なるものを支配する存在です。
とすれば、奥さんがウタマロを好いているとすれば、それは自らの男性性によって屈服させた女性的な精神を持つ男性であるはずです。
つまり、奥さんとは護衛達が考えるような「白人男よりも日本人男に忠義を尽くす白人美女」なのではなく、「日本人男を守り支配している白人美女」なのです。
では、なぜ奥さんはよりによって日本人のウタマロを選んで支配したのでしょうか?
奥さんは銃マニアであり、生身の銃にもこだわりがあった……とすれば、答えは簡単です。シヌノラが日本人の男に見た「堅い」という特徴がおそらウタマロにも共通しており、それゆえに奥さんはウタマロを手に入れたいと思ったのでしょう。
そして、ウタマロを完全に自分の「モノ」として手に入れるには、彼に対して白人上位思想を植え付けるのが早道です。彼は自らの同族を裏切って孤立し、白人である奥さんに守られるしかなくなります。そして、白人上位思想のおかげで、ウタマロは白人である奥さんを裏切れません。
つまり、ここにシヌノラに典型的に出現する「日本人の女」(日本人男に従属する白人女)というテーマと対立する「白人女に従属する日本人男」というモチーフが出現します。
ウタマロがトチローに勝てない理由 §
ここまで来れば、ウタマロがトチローに勝てない理由も明らかです。
ウタマロは白人美女を奥さんにして護衛させている強者ではなく、白人美女に支配され、彼女の銃に守られる存在でしかないからです。
しかし、ウタマロは気持ちだけは強者であり、寝室に踏み込んできたトチロー達に、奥さんよりも素早く反応して刀を取っています。
なぜ気持ちは強者であり得たかと言えば、他のどの白人男性よりも、彼は奥さんに「選ばれていた」からです。
奥さんがハーロックに勝てない理由 §
組織が手こずる以上、奥さんの腕前は傑出していると思われます。しかし、ハーロックにはあっさり負けました。
ここからは推定に過ぎませんが、奥さんが愛したのは日本人男性の銃だった、と考えると面白い解釈が可能になります。
- 奥さんが愛したのは、実はウタマロではなく、日本人男性の生身の銃であった
- 奥さんを独占したいウタマロは、イエロー・クリークの情報を白人に売り、日本人を皆殺しにさせた
- ウタマロは、奥さんが愛する唯一の生身の銃の持ち主となり、夫婦になることができた
- しかし、日本人の生き残りのトチローとハーロックが寝室にいきなり現れた
- ウタマロは即座に他の日本人を殺さねばならず、トチローに斬りかかった
- 奥さんは貴重な日本人の生き残りでありハーロックを殺すことにためらいがあり、その結果、早撃ち勝負でハーロックに負けてしまった
ウタマロが持つ秘密とは何か §
おそらく、トチロー達が探していた日本人の居場所の情報そのものでしょう。
実はその情報を秘匿することは、ウタマロの利害にも合致します。なぜなら、その情報が知られてしまえば、彼は存在意義を失って組織によって殺されるからです。それどころか、上記の仮説が正しければ、日本人の生身の銃は1本だけではなくなり、奥さんからも本気で守ってもらえなくなる可能性すらあります。
謎への答え §
以上の考えに基づき、謎への答えを書き込んでみましょう。
本文中で明示した項目以外を以下にまとめます。
- なぜ、最初から混血であると明言したハーロックは、後から「黄色い」という理由で車内から叩き出されるのか→シヌノラを犯すにあたって邪魔になったから追い出した。逆に言えば、ハーロックを追い出すまでは、シヌノラを犯す意思や計画はなかった
- なぜ、トチローは白人だけでなく豚からも拒絶されるのか→豚は人種差別など無く、人の真の姿を見抜くからこそ、仲間ではないと示した
まとめ §
このエピソードの基本的な構造は、以下の3段階を踏んでいると思われます。
- 「白人男>白人女>日本人男>豚」という階層が存在し、その階層は踏み越えることができず、上位の者は下位の者に従属するしかない
- しかし、奥さんとシヌノラはこの秩序に従わず、「日本人男>白人女>白人男」という秩序階層を生きている (シヌノラは奥さんと同じ秩序を持つように見えるため、代理として犯される)
- 男性的な心を持つ奥さんの秩序階層は、実はシヌノラと同じではなく「白人女>日本人男>白人男」であった
この3段階を要約すると以下のようになります。
- 『白人男に従属する白人女』(護衛がイメージする正常な姿)
- 『日本人男に従属する白人女』(シヌノラの状況)
- 『白人女に従属する日本人男』(奥さんの状況)
このエピソードにおいては、2番目の価値観と3番目の価値観が対立します。
1番目の価値観は、実はさしたる意味を持たず、それゆえに護衛達は早々に谷底に落ちて舞台から退場してしまいます。
ここで問題となるのは、3番目の状況を「是」とするか「非」とするかです。
このエピソードでは、トチローとハーロックによって成敗されることで、「非」と結論づけたようにも思えます。
しかし、ウタマロが成敗された理由は「裏切り」であって、白人女への従属ではありません。
実はとても奇妙な言葉が最後のページにあります。
人が人をブチ殺したくて まごころ込めて
銃を撃つ所 ていねいに弾の当たる所
このエピソードで銃による殺人が発生するのは、車内からシヌノラを救出する箇所と、ハーロックと奥さんの勝負だけです。おそらく、シヌノラ救出の際はまごころを込める余裕もないでしょうから、「まごころ込めて」とはハーロックによる奥さんの射殺を示していると思われます。
つまり、ハーロックが奥さんを射殺する状況において、ハーロックは「殺したい」という気持ちを抱きつつ「まごころ」を込めて撃ち、その弾は「ていねいに」奥さんに当たったことになります。
それは、奥さん自身が自ら殺されることが「まごころ」であり、それを達成するために「ていねいに」当たる必要があったことを示します。
それは、日本人男を従属させてしまった行為にまつわるあらゆる「罪」を意識し、正当な復讐者に殺されることを自ら望んでいたかのようにも解釈できます。
更に言えば、これは異民族の男と女が相互に従属関係を結ぶ難しさの存在も示します。シヌノラは、奥さんと同じ轍を踏まないように慎重な行動が求められたとも言えます。おそらく、シヌノラにもトチローとハーロックを支配する力は十分にあったでしょう。しかし、そうやって従属させてはいけないのです。
このエピソードは、シヌノラがタタンダールの誘いを拒否したエピソードの次に位置し、シヌノラ自身が自分の人生の行き先を本気で決めねばならない時期に位置します。そこに、このようなエピソードがあるのは、けして偶然ではないでしょう。そして、実際にシヌノラは奥さんの二の舞になることはなく、日本人の女になることに成功します。