大草原の小さな四畳半(奇想天外コミックス版)を読んで感じたことは以下の通り。
- 面白い
- 下手をするとガンフロンティアより面白い
- かなり強引な展開が多く説明が付いていない箇所があるものの、ガンフロンティアほどおかしくない。むしろ、素直
ということで、以下の仮説を立ててみました。
- 大草原の小さな四畳半はガンフロンティアの祖型である
- 大草原の小さな四畳半の方がより本来の意図に近い存在である
- ガンフロンティアは、大草原の小さな四畳半の受ける要素を拡大し、受けない要素を取り去ったものである。従ってガンフロンティアは構成がいびつである
この仮説の長所は以下の要素を解釈可能になることです。
- 松本先生があまりガンフロンティアを気に入っていない(らしい)こと
- シヌノラの性格が破綻していること
- 日本人が2人いて立場がかぶっていること
- 旅の目的である同胞捜しがあまり徹底されていないこと
ガンフロンティアのオーダーの推定 §
大草原の小さな四畳半とガンフロンティアを比較して、大草原の小さな四畳半の何を拡大し、何を取り去ったのかを推定します。
まず拡大されたもの。
- 性描写の量
- 白人のヒロイン
- 舞台の広さ(旅)
- 格好いいヒーロー (ハーロック)
次に取り去られたものです。
- 豚のような鉄道の測量員
- インディアンのヒロイン
- 鳥
- トチロー(日本人)を尊重して共存する白人
西部長屋人別帖の解釈 §
この推定からまず結論されることは以下の通りです。
- 西部長屋人別帖は、ガンフロンティアから大草原の小さな四畳半への揺り戻しである。つまり、多くの要素がガンフロンティアよりも大草原の小さな四畳半に似る
つまり以下の要素が戻されています。
- ハーロックの追加をキャンセル
- 旅をしない
- 白人のヒロインがいない
- トチロー(日本人)を尊重して共存する白人がいる
ガンフロンティアの解釈 §
ガンフロンティアの解釈も可能になります。
松本先生があまりガンフロンティアを気に入っていないこと §
おそらく望んだ通りのまんがを描けなかったからでしょう。
日本人が2人いて立場がかぶっていること §
本当なら日本人はトチローだけで良かったはずです。
旅の目的である同胞捜しがあまり徹底されていないこと §
もともと旅をする話ではなかったので、用意された物語の構成要素の多くは旅でも同胞捜しでも無いからです。
シヌノラの性格が破綻していること §
さてこのサイトではここがもっとも重要です。
白人のヒロイン出ることと性描写の回数を増やす要請の帰結として、シヌノラは以下の矛盾した要素を持たざるを得ません。
- 物語的に上位階級の白人でありながら、汚れ役となる
- 性描写の回数を増やすと相手が1人ではマンネリになる、必然的に「誰が相手でも受け入れる性格」にならざるを得ない
- しかし、ヒロインとして特別な感情を主人公2人組に持たねばならない
- どこの馬の骨とも分からない主人公と絡むために組織の生物学者という設定が与えられるが、ページ数的に淫乱女としてしか振る舞うゆとりが無い。学者らしい描写は存在しない
- 誰から要求されても身体を開く「優しい女」になるのは、要求からの帰結だが、それは優しい性格ということではなく、優しいと解釈しなければ収まらないということである。必然的に女性読者から「シヌノラの性格は理解できない」という感想を誘発する。人間として設定されたキャラではなく、条件から強制されたキャラなので当然
- 優しい女でありながら、女、犬、馬を相手にした時はあまり歓迎していない
その先の問題 §
というわけで、大草原の小さな四畳半って面白いね、ガンフロンティアよりこっちがいいね。という結論で終わればオシマイなのですが……。問題はその先。
結果として、シヌノラは以下のような通常あり得ない希代のドスケベ女キャラと化します。
- 相手を制限せず、相手の人数も制限しない
- 快楽のために有色人種を喜んで受け入れる
- 惚れた男の前ですら、他の男に身体を開く
- 強姦されてすら積極的に拒絶しない
- プレイ方法は多種多様なバリエーションを受容する
- 快楽のために立場を放棄して墜ちていく
この特徴は、実は単なる淫乱、好色という特徴を超えて以下の非常に特殊な欲望に昇華されます。つまり、いわゆるNTR(寝取られ)趣味です。
- 好きな女が他の男と性行為を行っている状況を見ることで興奮する
- 好きな男が見ている状況で他の男に抱かれることで興奮する
場合によっては、見られていない場合でもそうと分かっているだけで成立する可能性もあります。
実は、NTRという概念を導入した瞬間に、矛盾に満ちたシヌノラの性格がすっきりと解釈可能になってしまいます。そして、ガンフロンティアという作品の構造も綺麗にまとまってしまいます。
つまり、シヌノラは快楽を得るために性行為の相手とそれを見ている別の誰かを必要としている訳です。従って、旅の仲間として男が2人いることはシヌノラの最低条件人数となります。そして、もっとも惚れた男ではなく、彼とは別の男に抱かれることがベストの選択となります。だから最終的にトチローの子供を妊娠するシヌノラは、トチローがもっとも好きだったと思われますが、大多数のシチュエーションではハーロックに抱かれます。
そして、シヌノラは快楽を得るためにトチローを裏切り続ける必要があるために、ハーロック以外の男にも喜んで抵抗なく抱かれることができます。
組織が最終的な和解に差し向けた5人の間違いは、シヌノラの性格を単純な乱行マニア、多淫の性格と誤認した点でしょう。シヌノラは単なる過激な快楽行為を求めているわけでは無く、トチローを裏切る行為を求めているわけで。トチローと縁を完全に切って快楽行為だけを与えられても興奮できません。従って、シヌノラは組織の最終和解を蹴ります。
まとめ §
ガンフロンティアは、無理のある注文によって描かれた無理の多い作品ですが、そこから意図せざる形でシヌノラという非常に特異的なキャラが産まれた……と解釈すると、シヌノラのかなり突出した特異性が理解できるような気がします。
すると、似たような特徴を持つ早名礼子も同じ……という仮説も立てられます。