唐突に、ガン・フロンティアに関する新しい謎の存在に気付きました。
「女医・サン・ダウナーズ」において、女医の家に馬が乱入します。馬はまずエロクトがシヌノラを縛って犯している部屋に侵入し、シヌノラが縛られている台をひっくり返した上で逃げるエロクトを追います。そして、サン・ダウナーズが倒れている地下室に入り込むと、馬はサン・ダウナーズへの欲望を目に浮かべ、エロクトと共に犯し始めます。
ここで生じる疑問は、以下の点です。
- なぜ馬はシヌノラには欲情せず、サン・ダウナーズに欲情したのか?
- シヌノラもサン・ダウナーズも白人の美女であり、馬から見て区別される理由が見あたらないが、実際は区別されている。それはなぜか?
- 強いてランク付けするなら、シヌノラの方が上ではないかと思われるが、それにも関わらず馬はシヌノラに目もくれないのはなぜか?
- 馬に追われていたはずのエロクトは、サン・ダウナーズを犯す段階では馬と共闘している。なぜ立場が変わったのか?
- 同様に馬に追われていたはずのトチローは、馬から一切攻撃の対象となっていない。それはなぜか?
以上の謎が分からず悩んでいましたが、実はすっきりとした解釈が可能であることに気付きました。
物語構造のまとめ §
このエピソードは以下のような構造を持ちます。
- トチロー達は食糧不足となり、愛馬を殺して食料にすることを決定する
- 愛馬を殺す前にトチローは、人間の命は馬より大事だと言うが、同時にイエロークリークで白人から同じことを言われたと告げる
- 火薬量を減らした弾を使ったため、愛馬は死なず、起こった愛馬はトチローを追う
- トチローは逃げ出す
- 食糧不足対策として、シヌノラはハーロックとトチローをフェラチオし、タンパク質を補給する
- トチローは腹痛になるが、目の前に女医サン・ダウナーズの病院があるという奇跡が起こる
- トチローは睡眠薬で眠らされるが、それを察知したトチローは飲まずに寝たふりをする
- 1階の部屋でシヌノラは台に縛られ、エロクトに犯される
- 地下室でサン・ダウナーズは日本人の骨格や剥製をコレクションしていると語り、ハーロックもコレクションに加えようとする
- トチローはシヌノラとハーロックを比較し、シヌノラはまだ持ちそうだと判断し、サン・ダウナーズを失神させてハーロックを助ける
- 愛馬が病院に乱入し、1階でシヌノラを犯しているエロクトを襲う
- 愛馬とエロクトは地下室に落ち、そこで失神しているサン・ダウナーズを発見する
- 愛馬とエロクトはサン・ダウナーズを犯すが、頑張りすぎて病院は火事になる
- ハードネット・シティに到着すると、トチロー達が会いたかった相手はハラキリで自害したあとだった
「理不尽な格差への怒り」というテーマ §
このエピソードは、「理不尽な格差への怒り」というテーマに沿って解釈すると、全てが整合するということに気付きました。
通常、この作品での格差は「日本人 < 白人」として描かれます。
しかし、このエピソードではもっと繊細に分類されます。馬と人間の格差もあるし、エロクトとサン・ダウナーズの間にも格差があります。
- 馬 < トチロー & ハーロック < シヌノラ < エロクト < サン・ダウナーズ」
このような格差のヒエラルキーにおいて、馬の暴走は常に「上位の者から下位の者に対してふるわれる暴力」に対して向けられます。
以下の行動がそれにあたります。
- 馬を食料にしようとするトチローへの暴走
- 弱い立場のシヌノラを犯すエロクトへの暴走
- 弱い立場の日本人を殺そうとするサン・ダウナーズへの暴走
逆に、強い立場からいたぶられる弱い立場の者はスルーし、弱い立場でありながら強い立場の者に立ち向かう「下克上」を行う行為に対しては共闘すら行います。
以下の行動がそれにあたります。
- より強い立場のエロクトに犯されるシヌノラはスルーする
- より強い立場のサン・ダウナーズに酷い目に遭わされたトチローとハーロックはスルーする
- より強い立場のサン・ダウナーズをいじめようとするエロクトとは共闘する
馬の行動に矛盾はない §
つまり、馬の行動は一貫しています。
弱いものいじめへの反発と下克上です。
従って、エロクトがシヌノラを犯す「弱いものいじめ」に対してはエロクトへの怒りが発生するものの、エロクトがサン・ダウナーズを犯す「下克上」ではエロクトと心を1つにして共闘できるわけです。つまり、馬はシヌノラに欲情しなかったのではなく、下克上という行為に欲情したと考えればすっきりします。
また、同じ白人美女のシヌノラとサン・ダウナーズの扱いに差が出た理由も明らかです。両者は「格差」の問題として全く違う立場だったからです。
一方で、既に「格差」によって虐げられる対象となったトチロー&ハーロックは、もはや馬の興味の対象にはなっていません。
「格差への抗議」の結末 §
「格差への抗議」を行った馬とエロクトは(明確には描かれないものの)火事で亡くなります。「格差への抗議」「下克上」の結末は「死」であった、ということです。
一方、ハラキリした男は、追っ手が迫ってきたと気付いて自害したとされます。しかし、このように物語が展開してきた以上、単なる自害ではないかもしれません。つまり、このハラキリ男の死も、「格差への抗議」「下克上」の結末かもしれないわけです。
もし、トチローとハーロックが格差に抗議し、下克上を狙っていくとすれば、待っているのは「死」だけであることを示唆しているのかもしれません。
しかし、2人はけして下克上を狙いません。白人女性のシヌノラに対して、支配者としての態度を取ろうとはしません。
結果として、それが2人が最後まで生き延びた理由になるのかもしれません。