「マゾ タウンの雪」にはまだ謎があります。
シヌノラは最後の方で「私はハラがたったら噛みつくわよ」と言っているのに、実際は拉致されて縛られて犯されても噛みついていないのです。
そうすると、この台詞は奇異です。
見た目の構造 §
このエピソードは、間違った思想を持ったマゾタウンが滅ぼされ、日本人の仲間も殺された、と見えます。殺されても犯されても文句を言わないマゾタウンの住人はおかしく、ハラが立ったら噛みつくシヌノラとその方が良いとするハーロックは正常であると読めます。
しかし、それはトチローとハーロック側に寄りすぎた解釈です。
これだけでは、「ハラが立ったら噛みつく」と宣言したシヌノラが噛みつかないで犯されている説明が付きません。
実は対立軸が違うのだ §
ガンフロンティアという作品は基本的に「組織や白人対日本人とシヌノラ」と言う構造を持ちます。
ところが、このエピソードは違うのです。
実は、マゾタウンの秩序を受け入れるか否かで、別の対立軸が存在します。ここで、襲う側の他の街の男も「マゾタウンの秩序を受け入れた」者です。
この対立軸において、実は以下のように分類できます。
- 受け入れない勢力・トチローとハーロック(とあるいはマゾタウンを滅ぼした者達)
- 受け入れた勢力・マゾタウンの住人とマゾタウンから奪い犯した者達
実はここで特筆すべきことは、シヌノラは「この町の女と間違われて犯されたのに、相手はトチローとハーロックが踏み込むまでそれに気づかなかった」という点にあります。つまり、マゾタウンの秩序をシヌノラは受け入れて犯されたことになります。
言い換えれば、犯した相手は何らシヌノラに疑問を感じなかったことになります。つまり、マゾタウンこそマゾの理想郷だとすれば、シヌノラは住人の女のようにマゾ女として振る舞ったことになります。そして、いきなり襲われたのにそう振る舞ったということは、一切の演技無しでシヌノラはマゾ女なのでしょう。そして、「違う」という異議申し立てを行っていないのは、マゾ女として男から犯されることを肯定的に受け入れたからでしょう。
つまり、シヌノラは何ら努力することなく最初からマゾ女であり、マゾタウンの女とは何ら変わりはありません。そういうシヌノラから見たマゾタウンは1つの理想郷です。犯されるにあたってそれが正当化される論理があり、襲われるに値する肉体を持つ生身の1人の女として満ち足りた人生を送る「可能性」が示唆されます。
従って、シヌノラはトチローとハーロックと違う勢力に属します。
であるから、「殺さなくてもいいのに」「私はハラがたったら噛みつくわよ」といった否定的な台詞は、全てシヌノラからトチローとハーロックに向けて発せられます。異議申し立ての相手は犯した男ではありません。
坊主の奥さんは §
全裸で雪の上の大の字で縛られて殺されている坊主の奥さんの姿は、ある意味でシヌノラの未来の姿であったとも言えます。シヌノラがマゾタウンの女になる選択を選んでいれば、死体はシヌノラであったかもしれません。
ここで、マゾタウンの女になり、生きていくという甘美な選択肢も幻であり、美しかった虚構に堕していきます。
まとめ §
このエピソードからしばらく、物語は二重化します。
つまり、トチローとハーロックの物語と、シヌノラの物語は噛み合いません。
その噛み合わない行為は、次の「ミス イザナミの乱行」で頂点に達します。シヌノラは組織の5人から犯されますが、組織の幹部からの戻ってこいという誘いを蹴って、5人を射殺した上で、トチロー達には「殺し屋だった」と嘘をついています。
これが組織があからさまに出てくる最後となり、物語は結末に向けて動き出すことになります。